2014年11月05日

ブレインストーミング・マスター「ブレスター」

ブレインストーミングの有効な心理様式を自然と学習するカードゲーム「ブレスター」。アイデアプラントの作品、第一号です。

これについて、久々に言及したいと思います。


今から7年前、2007年3月14日にリリースし、その後、メディアで取り上げていただいたり、みやぎものづくり大賞ををいただいたりして、増産を重ねてきました。

よく、どんなところでこういうものを買うの?とたずねられます。

大企業の技術や企画での新しいプロジェクトチーム(での創造的な関係性の醸成)、研修部門(での創造研修の導入)などが多いように思います。発散的会話を楽しんで未成熟な考えでも出し合えるような共通体験を作れる、と言う点が大きいように思います。

カードゲーム、といっても、そんなにプロセス自体は難しくなく、自分の番がきたら、手持ちの中から一枚選んで、そのカードの指示に従った行動(大半のカードは、いろんなスタイルでアイデアを発言することが書かれています)をして、手持ちのカードを減らしていく、という感じのものです。

難しいのは思考処理と言語処理のほうです。

はじめにアイデア出しのテーマを選んだら、それについて、大量のアイデアをゲームを通じて出していきます。
(ゲームの設計的には、全部のカードを使い切るケースにおいては100以上のアイデアが創出されるようになっています

はじめは、すぐに思い浮かぶ妥当な考えでカード実施(アイデア発言)がこなせるのですが、だんだんと苦しくなります。

人間がいっときに独立な概念を生成していくと、認知上の飽和※が起こります。

(※多様な要素を認識していくとある時点で、次に登場する要素を、新しい要素として認識できなくなっていくフェーズに達すること。アイデア生成専用の概念と言うわけではなく、広く一般の学問で言えば、理論的飽和、として説明されることに準じます。)

この「認知上の飽和」フェーズに入るのが、アイデアをいくつぐらい出したときなのか、というのが気になるところです。ブレスターに限らず、いろんなブレストの場に入ってきた私のひとつの経験則なのですが、グループ(4人前後)でブレストを行っているならば、大体20~30ぐらい、かなり優秀なチームでのブレストでも50〜60個、です。もちろん、出しているものがネーミング、のようなものであればもっといきますが、出しているものがある程度構造を伴うようなアイデアや問題解決のアイデアであれば、大体、この辺の数がひとつの目安になります。(ちなみに個人でアイデア出しをしている場合には、もっと値が小さくなります。)

大事なのは、そして、面白いのは、それを超えた先の時間、です。

出しにくくなります。もう、これ以上無いな、というフェーズが先に述べたように、30個なり60個なりいずれやってくるだけですが、それを超えてまだ出そうとするわけですから、どの力の水準の人であれ、その先は苦しいわけです。

ブレスターの場合、カードゲームの形式なので、それでも、アイデアを出し続けるわけです。苦し紛れでもとにかくアイデア出しの指示を踏まえて発言をしていきます。

当然、各自われながら駄案だな と思うものがたくさんでてきます。過去に出た案を少し変えただけの類案だったり、苦し紛れで無関係な要素を無理に組み合わせてみたり、未成熟でとても説明が整然としていないものだったり。

実はここからが、真骨頂なのです。

「苦し紛れで無関係な要素を無理に組み合わせてみたり」という、このアイデアは、他のメンバーに新しい領域を照らして見せます。病院をヨリヨクする、というテーマだった場合、苦し紛れに、アウトドアで使う「テント」がなぜか思い浮かんできて、それを掛け合わせたダイレクトなイメージを口にします。『入院患者ベッドが全部テントになっている』などと。

考えあぐねてカオスのうねりの中で、他のメンバーは少し『病院に、テントがある風景』という視覚的イマジネーションを明るく照らされた漢字します。すると、次の番の人は、そこから想起されるより良い案をイマジネーションの中のサーチライトで照らして探す、、、ような処理をうっすらと行います。そして、それが意味性を持ったものとして結像することがあります。

(次の人が、手持ちのカードを出しつつ)『仲の良い人同士でテント村を作れるあの風景のように、入院後、趣味が同じで仲良くなった人同士が近くの場所にテントベッドを設営して、前向きに”退院したら、こんなことしたいんですよね”みたいな趣味の会話をしたり、将棋のようなすぐできるものなら、その場で将棋サロンのような空間をつくったりして過ごせるようにする(というアイデアはどうでしょう)』という発言をしたり。

こんなことが連鎖して、それまでの妥当な案の連続、にはなかった意外なものが生まれて来たりします。

(このときには、カードの中に含まれいてるTOIカード:トイカード、という多様なアイデアの切り口を記したカードが、役立ちます。およそ今対峙している問題には使えなさそうな切り口ばかりが後半は残りますが、それはその問題に対しての意外な切り口として働きかけるでしょう。)

・・・

そんな風にして、実は1時間でやりきるころには、さとい人だといろんなことを学んでいきますし、単に楽しんでいくだけの人でも、創造的にアイデアに乗っかり合って、ブレストの心理様式を自然に醸成していく、ということが出来る道具として、いろんな職場で使われています。

今では、アイデアプラントにとってのフラッグシップ製品として、価格はラインナップの中では中くらいであることもあって、1~2位の売り上げの製品となっています。(比肩するもうひとつの製品は、智慧カード、というTRIZモチーフの発想カードセットです。)


〜メディア上での記事〜

(現在は、製造のクオリティーが改善されて、写真のものとはテイストが若干異なります)




(( 執筆後記 ))

アイデアプラント代表として、私石井は、アイデア創出ワークショップや創造研修の設計と運営を良くやります。このブログをご覧いただいている方も、そうして企業内でお会いした方が多いように思います。(ありがとうございます。)

対外的には、石井は「アイデアワークショップのファシリテータの人」という認識が強いかもしれませんが、自分自身では私の仕事は「発想ツールを作る人」つまり、職人、だと規定しています。

旅仕事の日々がつづくと、開発の場所である仙台を離れて一月近く各地ホテルを泊まり歩くようなことがあり、だんだんと「俺の職業って、実は、ファシリテータなんだろうか。」と思ってしまうことがあります。

人前で話すときには、極力、プロとしてファシリテーションや講演が提供できるように、かなりの準備(基礎訓練とリハーサル、ワーク設計)とエネルギー注いだ運営をしています。この辺は、相手の時間を貰うからには、最大の物を渡したい、と願うところからそうしています。

なので、その時間が一ヶ月も続くと、どうも、勘違いを自分の無意識がしているような気がします。

根底にあるのは、創造工学の研究者としての求道があり、職業は、発想ツールを開発すること。(このことがあって、初めて、各社からの要望にこたえた、多様な発想ワークを設計し運営できるのだと思います。

そこをはずして、職業=ファシリテータ、としてしまったらその瞬間から、創造的なアウトプットをもとめずに、やり方の洗練に傾倒していくでしょう。それもありなんでしょうけれど、私はたぶん、そうじゃないほうがいい、とわかっていますので、そうしません。

そんなわけで、愚直に自分の志した道を日々進んでいます。その日々の中では、研究者・開発者・ファシリテータ(&いくつかの大学での先生業)が、螺旋のようにねじれあい、いろんな矛盾をはらみつつ、その解消が前に進む推力にもなっているようです。

posted by 石井力重 at 09:06 | アイデアプラント 3rd(2012-2014)



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