この同書3章「動機づけの理論」は、フロー理論で締めくくられます。異色の動機づけ理論であるフロー理論について述べよう、とあります。
(石井コメント:内的動機づけほど、社会的に広く認知され支持されているものではないと、位置づけをしつつ、これまでの理論では拾え切れないものが、ここでは正面から論じられています。私は、アイデア出しのツール開発チームで、学術メンバーから、フロー理論、を以前来たことがありました。没入感、といった興味深い視点がそこにあります。)
■チクセントミハイ「フロー(flow)」理論
取り組んでいる内容そのものの意義や厳しさとは関係なく、取り組んでいる内容自体に楽しみを見出し、没頭する状態がある。このような状態が「フロー状態」。
従来の外発的動機づけや内発的動機づけ理論では、「遊び」のように、やっていること自体に没頭し楽しさを感じる人々がいるのはなぜかを説明できていない。
外発的動機づけ理論では、仕事とはそもそも苦しくつまらないもとであると考える。一方、自己決定観や有能観、達成感を重視する従来の内発的動機づけ理論では、取り組む内容そのものはあまり注目されない。
ハードであっても、やっている最中は夢中で、終わってみたらとても楽しかったという経験もある。チクセントミハイが注目したのは、このように、人があることに没頭して取り組んでいる状態であり、それがやっていることの苦しさ、難しさに関わらないという点である。チ氏は、インタビューを通じて、フロー体験の要素として次のような状態があることを発見。
1 行為と意識の融合
(やっていること自体に打ち込み集中している状態)
2 限定された刺激領域への、注意集中
(目の前のことだけに集中している状態)
3 自我の喪失・忘却、自我意識の喪失
(やっていることに完全に集中しているため自我が
なくなっている状態)
4 自分の行為が環境を支配しているという感覚
(集中し周囲の環境と融合していると同時に、
それらの環境は自分次第であるという感覚になる状態)
5 首尾一貫した矛盾のない行為を必要とし、フィードバックが明瞭
(やっていることのステップが正しいかどうかが明瞭にわかり、
全体のステップが流れるように首尾一貫している状態)
6 「自己目的的」な性質
(やっていること自体が楽しく、その流れを保ち続けたいという状態)
このように、楽しみによって動機づけられた自己目的的活動において「全人的に行為に没入しているときに人が感ずる包括的感覚」がフローである。
時間を忘れるほど目の前の作業に集中。仕事においても、やっている最中は辛いが、終わったときには大きな達成感を感じたという経験をも人は多いだろう。フロー状態とは、報酬や評価などの外的な動機づけだけではなく、やっていること自体を楽しみ、そのことに没頭している状態。
■「やる気」のマネジメント。
「モチベーション・マネジメント」「モチベーション・エンジニアリング」
なぜ、人は辛く困難な状況であっても、そこにやりがいを見出すことがあるのだろうか。
第一に、それは、やっていること自体に楽しみを感じるからである。たとえ辛く困難な状況であっても、人は自分が好きなことをしているときには、それらが苦にならない。
第二に、金井と高橋は、「夢」の重要性を挙げる。(組織行動の考え方―ひとを活かし組織力を高める9つのキーコンセプト (一橋ビジネスレビューブックス)
企業のミッションやビジョンは、その企業にとっての夢でもある。そして、社員が「この企業」で働く意味ややりがいを見出すのは、職場環境や報酬、上司のマネジメントが優れていたり、仕事そのものに楽しさや面白さを見出すからだけではない。その企業が掲げるミッションやビジョンに共鳴するからでもある。
参考文献には小笹社長(リンクアンドモチベーション)の書籍が2つほどあるのも、この章の守備範囲の広さとして感じ取れる。
モチベーション・マネジメント ― 最強の組織を創り出す、戦略的「やる気」の高め方 (PHPビジネス選書)
モチベーションカンパニー―組織と個人の再生をめざすモチベーションエンジニアリングのすべて