最終日は、USITの開発者であるシカフス氏、日本のTRIZ普及推進の大家である中川教授の発表他がありました。
USITとは:
創造的問題解決法、あるいは、やさしくしたTRIZ、とも表現されます。企業の課題解決のために、問題の定義から解決策の生成まで、一連のプロセスと手法がセットになった優れた手法です。シカフス氏が開発をされました。国内では中川先生のご活躍で多くの人にわかりやすく手法が提供されています。中川先生の公式サイトでの、USITに関するすばらしい解説があります。
(エド シカフス氏の講演。右下の人物がシカフス氏)
■Ed Sickafus氏からは、問題解決方法論各種の根底にあるもの−メンタル的な資源を使用する方法の理解−に関する講演がありました。創造的技法の開発者のシカフス氏ならでは興味深い洞察がたくさん。「組織化されず論理的でもないが、しばしば見落とされがちな資源が自然な思考にはある。」「(右脳と左脳は)両方とも、論理付け、記憶、コミュニケーションおよび問題解決を行ないます。しかし、2つの脳はそれらを違ったやり方で行い、結果を共有します。例:一方はロジックがより得意で、もう一方はメタファー(隠喩)理解がより得意です。」(※和訳テキストに、一部加筆)「RHは空間の情報を分析するが、その結果を言葉で表すことができません」「一般的に、我々は瞬間的で、直感的な解決概念で始めます(写真のスライドの内容)」「組織化は思考のためではなく、コミュニケーションのための実践である」「私たちの創造的思考(コミュニケーションでない)を最大にするために、RHの隠喩的な思考を促している間に、LHの論理的推測を抑制する必要があります。」「構造と言語は論理的なコミュニケーションのツールです。イメージとメタファー(隠喩)は創造的思考のツールです。」「RHの隠喩的な思考を取るために簡単なスケッチを使用してください。画像的な表現に説明を合わせてください。洞察の直観的なジャンプを促進するために、アイデアの判定を一時停止してください」
(私見)TRIZが、USITが、ということを超えて、論理的に潜在意識の階段を下りて、創造的なフィールドで脳を動かすということが、すこし理解できたような気がします。USITという創造的な手法がその背景に持っているものが、「感じられた」ような気がします。
■中川先生から「USITの「6箱方式」の使い方と意義」についての講演がありました。そこで、類比思考のプロセスのあいまいさをなくすUSITの6箱方式について、事例を踏まえてコンパクトにお話をしていただきました。(詳細は、(備考)部分に記述しました。)
(私見)USITは、技術開発にも強力で使いやすいツールですが、技術以外の一般の課題に対してもきわめて適用のしやすい発想プロセスだとおもいます。その意味もあって、先生の例示では、「裁縫で短くなった縫い糸をとめる方法」「忘れ物を防止する方法」といった、身近で面白い課題をテーマに取り上げておられるのだとおもいます。優れた手法のセットですが、中でも「属性分析」と「USITオペレータ」は特に優れた「智慧」だとおもいます。決して今まで誰もしたことのない特殊な思考方法ではありませんが、意識的にその思考様式をとることの重要さ、そして、ツールとしての利用可能形態にしたこと、とてもすばらしいとおもいます。
■ポスターセッションもありました。その中でもっとも興味深いと個人的に感じたのは、台湾のChen氏の発表「矛盾マトリクスの空のセルに関連する問題を解決するための「単一特性法」」です。矛盾マトリクスには対応する原理の入っていないセルがありますが、そのときに、改善特性の同じ行に並ぶ発明原理を活用する、という切り口です。その行に出てくる原理を出現頻度によって分類しながらリストアップします。(A=19回以上、…、G=1〜3回)そうして、それらの高頻度のものを候補として適用しよう、というものです。この考えのよいところは、空白のセルをどうしよう、というだけではなく「The TRIZ Method Without Contradiction Information(矛盾情報を使わないTRIZの方法)」である点です。改善したい特性にたして、何が悪化する特性なのかを特定せずに、候補となる発明原理を判断できます。悪化する特性を、掘り下げ分析していくことが解決への基本だとしても、悪化する特性がどうにもわからない(絞りきれない)ときもありますが、そういったときに、活用しやすい知識となりそうです。なお、Chen氏に、どうやってこの方法に思い至ったのですか?とたずねると彼はこう答えました。「空白のセルをどうしよう、という問題を解決するのに、TRIZを使ったのだ」と。確かに、情報の損失。そしてアバウト原理などの原理が対応しそうです。TRIZはその自身の手法発展においてもその手法内容が適用される可能性のある、とても面白い理論体系であるおもいます。
■TRIZの有力なコンサル企業、アイデア社からのご発表もありました。TRIZという理論をユーザにとって、もっともわかりやすくお話していただきました。電気シェーバーの改良をする際に、TRIZを使うとどういう思考を展開していくべきか、ということをモデルに。開発者にとってのTRIZのツールとしての使い方が、すっとわかりました。こうした優れたコンサル企業があることは今日の日本のTRIZの展開に大きく影響しているとおもいます。
■(備考)6箱方式のフロー概要
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1)ユーザの具体的問題
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問題の定義
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2)適切に定義された具体的問題
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問題の分析・・・技術と問題をよくしっていないといけない。
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3)現在システムの理解+理想のシステムの理解
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アイデアの生成(オペレータ)
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4)新システムのためのアイデア
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解決策の構築・・・ここは技術のバックグラウンドがものすごくいる。
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5)解決策のコンセプト
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実現
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6)ユーザの具体的解決策
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※この「□□□・・・」を抜いた区切り方が4箱。
現実の世界・・・技術・ビジネス・社会主導
1(2)(5)6
思考の世界・・・技法主導
(2)34(5)
■6箱方式に対する従来の4箱方式
従来の4箱方式(ユーザの具体的問題⇒モデルの一般化した問題⇒モデルの一般化した解決策⇒ユーザの具体的な解決策)では、適用するモデルはたくさん。主要な解決策生成法が、別々の問題分析ツールをもつ。どれかをつかう、と、問題の一側面を分析することに。モデルはどう選択するのか?どう抽象化するのか?というあいまいさ。TRIZの全体のプロセスが非常に複雑に。
(以上は、石井の理解による記述であり、不適切な表現、誤った理解を含むことがあります。)