早稲田大学での夏季集中講義(デザイン論、という名称の、アイデア創出のトレーニングの授業)をしてきました。
早稲田大学の人間科学部の学生さんたちがブレストに造詣が深くなっているので、企画系の人材が欲しいという企業さんにむけ「早稲田、よい学生がたくさんいますよー」のPRもかねて、紹介します。
三日目の様子(ビデオ)
このシーンは、「アイデア出しの方法を、考案しよう」というワークです。
アイデアの出し方をアイデア出しする、という「メタ」的な作業。
学生さんたちのアイデアを聞いていると、中には”逆立ちをする”、という案を言っている人もいて、「お、それって、”あばれはっちゃく”ス-タイルだね」とコメントをしかけて、やめました。彼ら彼女らは、知らない世代だよなー-、と。
この、書き出した「アイデアの出し方の方法」のリストは、実は未来の自分をもっとも助けてくれるノウハウになるでしょう。発想方法っていうのは、自分が作ったものがもっとも使いやすいのです。彼らは、アイデア発想法の本を買うよりもずっと効果的なものを手に入れて帰りました。(そして、それが、最終日の「最終試練」に効いてくるのです。この時は知らずにいますが。)
四日目の様子
物語カード(石井がつくった、お話のプロットのアイデアを考え出すための49枚のカード)をもちいて、新しい物語をブレストしているシーンです。
「物語を発想するアイデア技法を学ぶことに何の価値があるのか」という問いをこの学部だと突きつけられることも想定していたのですが、昨年と同じく、ストーリーを考案するこのアイデアワークは、問題解決のアイデアワークよりもずっと盛り上がります。これはどこの大学でも同じというわけはなく、やっぱり(”そんなに読まない”と本人たちは言いつつも、現代の平均的な若者としては)読書量の多さが根底にあると感じます。
ちなみにこのメソッドはこの講義においては(発想トリガー法を用いる際の)「概念適用の柔軟さを鍛えるトレーニング」と位置づけています
(ただし、それだけではありません。社会人になって商品企画や広告などに進んだ場合には、商品のストーリーが大事になります。その時になって、ちょっと「あ、なんかたくさん思いつくぞ。」と思ってくれるだろう人もいるでしょう。)
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四日間のビデオ記録(もっとたくさんあります)を振り返ってみると、日に日にブレインストーミングの”体力”がついていることが分かります。なんというか「出なくても、出す」「出すぞと強く意思を持つから、苦しさの先にある良案に手が届く」を次第に繰り返していると、体力がついて、アイデアワークが楽しくなります。スポーツに似て、基礎体力がついてくると、実践が楽しいわけです。
もともと、地頭力の高い早稲田の皆さんなので、基礎体力という素地があるので、そうなってくるのも、すぐです。
15コマの半分、7~8コマ目ぐらいまでが苦しいけれど、その先は、変わります。
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さて、この講義、昨年と変わって、単位認定の方法がシラバスに明記されているのですが”出席ポイントでもなく、レポートも、試験もなく、独特の方法で、単位認定をします。
その方法とは、「100ideas」というものです。
講義の14コマ目の冒頭に提示する「発想のお題」。
これに対して、15コマ目の終了までに、専用のシートに100個のアイデアを書いて提出する。
1秒でも遅れたものは、受理されず不合格。
さて、こういうルールだと、学生たちは、極端な話、13コマ目までは、講義に出てこなくてもいいわけです。
眠いのに出てきて眠っていたり、他にしたいことがあるのに出席のために出てくる、というのもいらず、「聞きたい人だけが出てくる」と。
すると、200名(たぶん実質は150名ぐらい)の集団が、緩急をつけてワーク中心講義ができる。これは、ありがたいです。
さて、で、その「100ideas」ですが、学生さんたちの初日のツイートを見ていると「講義は楽しい、でも、100個も出せる不安」という声がありました。
しかし、15コマの終了時刻時間までに提出された180名超の学生さんの内、未達成だったのは1名だけでした。その一名も、アイデアは非常に熟慮され、構造化されたものであり、分割したら100の達成をはるかに超えているものでしたので、受理しました。
講義終了後、とある学生さんのツイートを見ていて「(頭をすごく使った後で)夜勤のバイトがきつい」といった声も見ていましたが、それはそうでしょうね。
「最終試練」となづけたのこ単位認定のやり方は、どんなにアイデア出しが苦手な人でも、授業に全部出ていたら、(へとへとになりながら)クリアできるものです。カラーバス、発想トリガー各種、自ら考案したアイデアの出し方を実際使う、などして。
「スキルを持った」というのと「それを、全力で使う。使い切る」というのは、全く違う。
だからこそ、この講座の「最終試練」なわけです。
100個出せないものは、修了要件に能わず。
Know→Do→Canのところまで、行って単位認定。
(その意味では、ほとんど講義に出てこずに、100ideasをスパッとやりきって、単位を取った30名ぐらいの学生さんたちは、そもそもこの講義を受けずとも力があったので、ルール通り、C評価ではありますが、単位にしました。それは、誰も損をしていないので、みんなにとって、いいだろうと思います。やる気のある人だけで授業ができますし、能力か創造的努力で、単位が得られる。)
その30名も含めて、180名超の学生さんたちは、全員、3時間で100個のアイデアを生成しました。
(手書きの紙、書いた紙を本人が石井に手渡し、その場で100個をチェック、ちょっと質問もする、というスタイルなので、ここは逃れようのない作業で、学生本人がとにかく実施したわけです。)
この最終試練をクリアすると、この先の人生、企画的局面で、アイデア創出、恐れるに足らず、となります。
100個を出し切れた経験。しかも3時間で。
それがあれば、20や30出すのは造作もない。
早稲田大学でこの授業を受けた学生さんは、そういう「筋力」をもって、社会に飛び出せるわけです。
数年先に就活があるでしょうけれど、その場で大量のアイデアを提案せよ、と言われたときに、”5個しか浮かばず、それを提示する学生さん”と、”短時間で30個も思い浮かべてそこから5案を提示する学生さん”では、圧倒的にちがうでしょう。
スポーツでいえば、アイデア創出の力というのは、脚力を鍛えるようなものなのでゲームを有利にして、勝ちやすくはしてくれるでしょう。脚力だけで試合に勝てはしない。しかし、大きく試合運びは有利になる。強い脚力があれば、高度な戦術も展開できる。
この「デザイン論」という名の「アイデア創出のトレーニングの授業」は、そういうものでした。