アイデア創出は、繊維質な紙を裂くことに似ている、と。
繊維質な紙。たとえば新聞紙。新聞紙を手でびりりと裂いてみる。新聞を縦方向に(新聞日付のついているほうから、広告欄のついている下側へ)さく。すると結構きれいに裂けて行きます。で、今度は横に向かって割いてみる。すると、不思議なほど、裂け方がばらばら。きれいに裂くことはほとんどできません。
■ 繊維質な紙には、裂ける方向がある。アイデア出しにも方向がある?
アイデアを出していくと、うまく出せたり出せなかったりします。
もちろんいろんな理由があります。ただ、大まかにいえることが一つあります。
出てくるアイデアを、「実現度」と「斬新さ」の2軸で観察する。
するとどのチームにも同じよう傾向の発案プロセスが見られます。

横軸を実現度、縦軸を斬新さ、としたら、
はじめは原点付近にアイデアが出ます。(1の領域)
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その後、実現度の高い部分のアイデアが出ます。斬新さは低い。(2の領域)
▼
そのタイプのアイデアが出尽くして、なお、がんばる。
すると斬新さの高い部分のアイデアが出ます。実現度は低い。(3の領域)
ここからが問題です。
実現度の高いアイデア(2の領域)。ここのアイデアをセレクトしてしまう。
で、これを魅力的にしよう、斬新なものにしよう、と努力しても、それ、難しいんですね。
努力しても、そうそうは斬新さはあがりません。
思い切って斬新度を”えいっ”と上げる。
すると、実現度がガクンと低くなる。
企業のアイデア会議では、実現度の大幅な低下を嫌う傾向があります。
実現度の低下を受け入れにくいので、斬新さを、ほとんど上げられない。
会議時間だけがかさんでゆき、毎回同じようなアイデアに。
この特性を、モデルで表してみます。
掘り起こしたいアイデアは、斜めに繊維の入った紙。
アイデア出しは、これを、手で引き裂いていくこと。

右に向かって割いていくと斬新度はすこしずつ低下。
上に向かって割いていくと実現度はどんどん低下。
実現度重視の場合では、右に100%まで裂いてしまう。
それから今度は、上に裂こうとする。
すると、あまり上に裂けない。
が、しかし、実現度は急激に下がります。びりびりと。
なので、あんまり”余計なこと”ができなくなってしまう。(青いライン)
斬新さ重視の場合は、上に100%まで裂いたら、今度は右に裂こうとします。
すると右に裂けていく。
少しずつ、下のほうへも下がる。
多少、斬新さは、犠牲になるけれど、比較的スムーズにびりりりと裂けます。(赤いライン)
アイデア創出をするチームを観察しているとこういう感じの特性があるんです。
(※注:青いラインについて。これが必ずしも悪い、とは言いません。短い時間で実現度の高いアイデアを出す、ということが求められる状況もあります。)
はじめに、突飛なことを沢山出す。
ブレストのルールの一つです。
何でそうなのか、といえば、上のような特性があるから。
完成度を上げてから、突飛なことを言えば、
みんながいやな顔をする。それ、当たり前なんですね。
アイデア出しは、発散と収束の2フェーズがある。
発散のフェーズでしかできないことがあります。
それが突飛さ、斬新さをあげること。
ブレストで「変なこといったらはずかしい」と
思わないでください。
ビークレイジー。
発散のフェーズでしかできないこと、です。
アイデア出しは、繊維質の紙を裂くこと。
はじめ実現度の高いほうに裂いては、
魅力方向へは、うまく裂けない。
そういうこと。
学問的には研究されているのかどうか、わかりません。
ただ、アイデア出しの名著『考具』には
「わがまま→やさしさ」という言葉があります。
デザイナーの川崎さんの例からの言葉です。
(ちなみに、この『考具』という本、すごくいい本です。)
はじめに”わがままさ”が無ければいいデザインができない。
そして”やさしさ”でユーザーにマッチさせていく。
スターアイデアが右上だとしたら、はじめに縦方向に裂く。
それから、横方向へ裂く。
「わがまま→やさしさ」を私なりに、そんな風に理解しています。