社会的促進、social facilitation、という概念があります。
心理学の言葉ですが、大辞林にも載っています。引用しますと
「集団で作業をすると、同じ仕事をする他者の存在が刺激となって、一人でやるよりも達成効果が増大する現象。」
です。
とはいえ、”いつでも”、促進になるわけではなく、逆効果になることもあります。
これについて、正確な解説はほかの文献(例えば、こちら)があります。
ざっくりといえば、
「慣れている作業」は周囲に人がいると、促進され、
「慣れていない作業」は周囲に人がいると、抑制される、
という効果です。
さて今度は、創造的孤独。
[創造的孤独(周囲に人のいない環境で熟慮する)こと]
これは一般に使われる表現ではありませんで、
これから、使っていきたい概念を言葉です。
詳しく述べます。
ワークショップでワイワイしゃべると、場の設計がうまいと、非常にアイデア出しは「捗り」ます。
まず、量がたくさん出るんです。
そして、アイデア出しには「量が質をもたらす」側面があるので、質的にもよい閃きが出る傾向にあります。
さてしかし。
初期的な多数のアイデアが出た後に、それを整理してアイデアスケッチを書き出す作業では、先日の実験で興味深いことが分析からわかりました。
それは、オンラインでのワークショップ参加者のアイデアスケッチの方が、リアル会場の参加者よりも、高評価を取ったのです。(比較の座組は、ここでは端折ります。詳しくは学会発表時に。)
アイデア創出数や笑い声などは、オンラインは不利です。2〜4割ほど減ります。
量が減るということは、質的にも不利、となりがちです。
ですが、アイデアスケッチという「コンセプトをまとめて、表現した作業」においては、オンラインが有利になったのは、不思議に思えました。
この点を掘り下げるには今手元にある実験データでは条件が足りないので、仮設の範囲を出ないのですが、考察を述べます。
オンラインとリアルの差をよく体験している各種の研究者や講師とのこのことについてディスカッションをしました。
すると浮かび上がってきたポイントがあります。
「アイデアを整理して推敲して書き上げる作業において」、リアル会場は他者が周囲にいる状態であり、オンライン参加者は完全に一人状態になっている、点が大きく影響したのではないか、と。
つまり、社会的促進、という意味では、アイデアスケッチを仕上げていく上では、現地会場は「抑制」効果になる、のかもしれない、と。
こういう、アイデアワークの中の熟慮フェーズには、創造的になるための孤独、いわば「創造的孤独」が大事なのではないか、と。
この考察は、まだ研究が始まったばかりです。
正確なことが、統計的に言えるのはまだずっと先、10年後とかもっと後かもしれません。
この時点では「考察レベルのこと」ではありますが、という前置きをして、言いたいことを述べ切りますと、
社会的促進が「抑制」として働いてしまう「高度な思考処理を必要とする段階」すなわち「整理(概念の構造化、記述の推敲)」には「創造的孤独」(物理的に周囲に人がいない)状態を形成するほうがよい、かもしれません。
オンラインの活動(講義や研修やワークショップ)がリアルに比べ、いろいろとやりにくく効果が落ちる、と多くの人が実感を持っていますが、どうも、オンラインの方が有利になる要素もありそうです。
この辺、もっと整理して、秋の学会では報告・共有したいと思います。
以上、このブログとしては珍しい、研究メモ、的な記事でした。