2021年11月05日

珍しい体験として「家じまいに向けて、実家の敷地内の神社をおかえし」しました。

活動報告のブログとしては、珍しく、神事と実家の話です。

私の実家は千葉市にあります。
そこに住んでいた父と母が、2020年、2021年と相次ぎ死去。
実家はだれも住む人のいない家になりました。
家じまいの方向に向けて、いろんなものやことの片付けが始まります。

そこで、我が家の敷地の奥に立つ「神社」をおかえしする、という行為が持ち上がりました。
これは、神棚といったものではなく、鳥居、祭壇、神輿ぐらいある社、その中に、ご神体、が、という本格的に、神社の形をとっています。

まつられているのは、力松稲荷。
これは、京都伏見稲荷の中腹にある御前谷の「力松大神」(りきまつ おおかみ)の分霊を受けたものです。

((この神社をめぐる石井家の話))

母や父の葬式で、父の若いころの話を聞いて、どうしてこれができたのかを知りました。
父が創業者として、裸一貫から、石井興業を始めるころ、時期が定かではないのですが、仕事仲間から、商売繁盛の神様で、稲荷さまを祭るのがいいのでは、という話で、稲荷神社を祭ることにしたそうです。

父の話の断片をつなぐと、
「神社庁に相談したら、京都伏見稲荷の力松大神が、この土地の担当をする神様だということで、力松さんの分霊を、もらい受けて、神社を建立した」らしいのです。

そして、その家に生まれた長男の私は、力の字をもらい、力重となりました。
ちなみに弟もいまして、弟は、松の字をもらいました。

子ども時代には「りきえ」という名前の音が奇妙だと周りの子どもから言われていましたが、大人になると、珍しい名前であることは、私の仕事的にはプラスなので、ありがたいと思っています。(何せ、苗字は石井ですから。これで名前も、たかし、とか、ひろし、とかだと、なかなか覚えてもらえなかったでしょう。)

生まれた時から、自宅の敷地の中には、神社のお社があり、自分の名前の由来の神様に時々手を合わせる、という日々でした。
しかし、すぐ裏には、石井家の先祖のお墓(日蓮宗だと思うのですが)もありますし、クリスマスもする、という感じでしたので、宗教的に特別にこだわりがあったわけでもなく、父に、「我が家の宗教は神道なの?仏教なの?」と聞いたこともあります。

父曰く「宗教というのは、自分を律するための”装置”だ。神様や仏様がいるかどうかは分からない。主義としていうなら、無宗教に近いと思う」とのことでした。

立派な神社があるし、仏教のお墓もあるしで、かなり、神仏のことを、丁寧にしていたと思うのですが、そんな風に「自分を律するもの」として、私も「あらゆる宗教をリスペクトし、自身は特定の宗教に属さない」というスタンスでいます。

ただ、自分の名前の由来である、力松大神(伏見稲荷大社)には、京都に行くたびに、手を合わせに行き、自分の仕事を振り返り、この先に何をしていこうとかという見通しを立てる、ということをしています。
友人曰く、「普通の人より、石井さんは信心深いですよ」とのこと。

神様ごとはよくわかりませんが、なんでか、京都にはちょくちょく案件が出てきて呼ばれて、来たついで、伏見稲荷大社に、登って、自分の内面と向き合う時間を過ごしていました。
私自身が「損得」より「志し」を常に、仕事の物差しにするのは、志が正しければ、どう歩いても、きっと道は開けるだろう、という、ある種の能天気さがあり、それは、こういう部分に根差すのかもしれません。

((さて、本題に戻ります))

そうして、力松稲荷が、実家の敷地に建っているのですが、父が晩年、自分が動けなくなる前に、神社を京都におかえししたい、と言っていました。
父の遺言であれば、それは果たさねばならないと思い、また、住む人のいなくなった家にずっと、神社を放置したようにするのもよくない、と思い、行動を開始しました。

この先のことは、あまり経験する人がいないことで、かつ、ネットに情報がほとんど無いことなので、そういう方が検索して読まれることも意識して、書いてみます。

父死去。伏見稲荷さんから毎年父あてに届く伏見稲荷さんの会報(?のような冊子)のところに電話をして、本人の死去を報告。→それで、会員(たしか、コウイン、講員、と先方はおっしゃった)の更新を停止。

そして、神社のおかえしは、初めてでどうしたらよいでしょう、と相談。
先方からは、返さなくても、子孫(私)たちが受け継いでもよい、とおっしゃってもらって、そういう選択肢もあるのか、とおもいました。
(ただ、今回は、神社をお返しするのは、父の遺言なので、おかえしする方向で更に伺いました。)

回答を要約しますと

・社の中にあるご神体を、本体(伏見稲荷さん)に持参して、ご祈祷所(本殿のところにある)で、おみたまをお返しするご祈祷をしていただく。(そうすると、分霊が入っていたご神体から、お御霊が出て、本体に戻るそうです。合祀という表現は正しいかわかりませんが、分身が、本体に再結合する感じ。)

・それ以外のもの(社の建材、装飾品)は、普通に廃棄してよい。(建材レベルをお焚き上げすることはしないので、おみたまを抜いた後は、ものとして廃棄してよい。)

・陶器でできた、お狐さま(稲荷系はそういうものがあるのですが)は、神様の眷属なので、持参しなくてよい。廃棄してよい。

・ご祈祷料は、5000円から、お気持ちで。
・祈祷自体は10分から長くて見て30分。
・事前の予約などは特に要らない。当日来て、受付でご祈祷を依頼する形で良い。

・ご神体を宅急便などで輸送するのは避ける。(どう扱われるかわからないので。)なので、京都まで、人がハンドキャリーするべし。

ということでした。

上記のことは、父の死去から、母の死去を経て、さらにコロナが収まるまでの1.5年間に、徐々に手さぐりに進めてきて、電話で聞いたり、私が別の用事で京都に行った時に伏見稲荷さんの神主さんに聞いたりしたことを、まとめましたので、表現にあやまりや、事実に反することもあるかもしれません。もし同じような状況方がいて、このブログを見ている場合は、一つの参考としてみてください。

(なお、最初に父の死去を報告する電話で、神社をしまうには、をたずねた時には、言葉も段取りもわからず、しどろもどろで、全然話の要点を聞けなかったです。電話で、神社をお返ししたい、という相談をすること自体が、正しいのかも分からず。)

((さて、実施の様子))

私が、10月末に関西で講演の仕事があり、そこでおかえしする、ということに。
兄弟も都合をつけて、兄弟全員で、伏見稲荷さんに行きました。

弟が千葉の実家から、ご神体を運んできてくれました。(ものとしては小さくて軽い)
朝8時、四条烏丸のホテルを出て、近くのシェアカーを借り、伏見稲荷さんに。
8:30。ナビに従ってスムーズに到着。伏見稲荷さんにはかなり大きい駐車場があります。それでも満車になりますが、この時刻だとすいすい入れました。
(ナビで、駐車場が表示されない時は、参集殿(さんしゅうでん)、が表示されるならば、そこを目指すとうまく行けます。伏見稲荷大社の前の道は一方通行なので、ナビを使う方が楽です。)

そこからの登山。
有名な千本鳥居を超え、池、三ツ辻、四ツ辻、と上がります。
そこで頂上へ行く道でなく、御膳谷のルートに。
御膳谷にある力松大神につくと40分が経過していました。(9:10頃着)

ご祈祷の前に、最後に、通常の参拝を兄弟一同で行い、
9:30過ぎに、御膳谷(ごぜんだに)奉拝所(ほうはいじょ)で、ご祈祷の用紙に記入。

(伏見稲荷さんは大きく多数の神社がありますが、奉拝所という神主さんが詰めている場所は、3か所のみで、運よく、御膳谷エリアに奉拝所があるので、そこの神主さんにご祈祷をお願いし、目前でおみたまのお返しのご祈祷をしてもらえましたが、普通は、本殿でのご祈祷になるところ。)

ほどなくして、ご祈祷開始。

終わりの方で、玉ぐし(四角いギザギザの紙が付いた榊の枝)を神主さんから受け取り、祭壇に捧げ、二礼二拍一礼して、長年、実家を見守ってくれたことを心の中で御礼しました。

多分10〜20分ぐらいの所要時間でした。

なお、相場が分かりませんが、兄弟三人で来て5000円では、ずっと実家にいてくれたお礼としては、ちょっと少ないかなと話し合って、一人1万ずつの、3万円にしました。
(半世紀ぐらいいてくださったのだからもっとたくさん納めるべきだろうか、という考えも脳裏をよぎりましたが「ちゃんとおかえしに伺う姿勢が尊いのだ、金額の多寡じゃない」と言い訳しつつ。)

そして、神主さんから、御神饌(ごしんせん)(おこめ、お神酒、羊羹などがはいったもの)を頂きました。(後で、兄弟で分けました。)

これで、終了です。

もしも、私と同じように実家に神社があって、建立した人が世を去り、家じまいに向かって、どうしよう、ということがあれば、これが役に立てば幸いです。
多分、時期や場所によって違うこともあると思いますが、やってみると、そんなに悩ましいことでもなく、できます。

((余談))

神主さんが力松大神(の社)から、奉拝所まで戻る間に、すこし言葉をかけてくださいました。

その日は明け方から雨が降り、登る間に上がり、曇っていました。
ご祈祷をしてもらって、最後のところで、雲が切れて、ご神体に日が差しまして、ご祈祷後にまたくもりに。
単に天候でしょ、と言えばそうなんですが、タイミング的には、演出したようにそのタイミングだけ日が差したのです。

「大事に祭られていたことがわかります。
 ちゃんと返しに来てくれてありがとう、と
 神様がおっしゃったように思います。」

と、ありがたい言葉をいただいて、神社をおかえしする私たち兄弟としては、ほっと安心しました。

これまた、神社を返す人に共有したいのですが、
「お稲荷さんを、おかえしすると、”お返し”がある」と俗っぽいことを言う人がいます。

父も、実は、おかえしのご相談に京都に来た時に、道中のタクシーでそれをいうと、運転手さんに「返してしまうと、お返しがありますよ」と言われて、ひるんでしまって、相談はしないで普通の参拝だけして帰ってきた、という話をしていました。

神主さん(ご祈祷の前にも直接伺い、別の神主さんにご相談した時の神主さん)曰く「(返すと、お返しがあるなて)そんなことは、絶対にありません」とのこと。

「もちろん、ないがしろにしていて、ちゃんと返すこともなく打ち捨てて、というような、ひどいことをしているならば、話は違うかもしれませんが、”大事にしていて、たたむということになり、ちゃんとお返しされる”人に、おかえし(たたり的なもの)なんて、ありません。」と、はっきり、他の職員の方も、電話口でおっしゃっていました。


((めったにいないと思いますが、同じ状況に立たれる方へのメッセージ))

この日、ご祈祷をしてくれた神主さんが、歩きながらぽつり、とおっしゃったのですが、
「こうして、ちゃんとお返しに来てくれる方も、少ないんです」と。

私の実家も、返せなくなる可能性はありました。
父が晩年、朽ちてきた鳥居を一旦壊し、社全体を再建築中に亡くなったので、ご神体や関連のものがしばらく行方不明でした。
それを入れた箱が葬儀の後、半月ぐらいで倉庫から出てきて「あ、こんなところに。」と。

きっと一時的に雨をしのぐための処置だっと思うのですが、もしこのままで、いつか家を壊すことがあったら、解体業者さんがバリバリと押しつぶしていたかも」と思うと、神社を建立したどの家にも、いずれ起こる可能性はあることなのだろうと思いました。

あるいは、実家を長らく空き家にして、ぐずぐずしているうちに、神社の本体の連絡先を知る人がいなくなってしまうことも、ケースとしてはありそうです。
そういう場合は、最寄りの神社さんにまずは相談してみると、話が動き始めます。

私は最初に、神社のしまい方を相談したのは、神社庁のホームページ(というものがあるんです、調べてみて、へえ、と驚きました。)で、実家の住所を告げて、どこに相談するといいのかを伺って、千葉の総まとめのところを教えてもらい、そこで、実家の近所の神社さんを教えてもらい、連絡したところから始まりました。

そこの神主さんは丁寧に相談に乗ってくれましたが、結論としては、由来のわかっている神社であり、そのおみたまをお返しするのは、その本体となる神社ですよ、と伺って、本格的に伏見稲荷さんに、おかえしの相談を始めたのでした。

当時は、父を亡くして、精神的に混乱もしている中で、神社の相談をあちこちにしても、なかなか具体的な段取りにたどり着かない(神社本庁→庁の千葉支社→近所の神社→ようやく、伏見稲荷さん)という手探りのやきもきもあったのですが、あれから一年半たって、すっかり礼をもってお返しできたので、とてもすっきりしています。

((最後に))

宗教の話、神様ごと、仏教のこと、は人によっては信じるものがあり、デリケートなので普段は話題にしません。

また、我が家のスタンス(父は、神社まで建立して、息子たち(=私たち)へ名前としてももらっているのに、神様は心を律する仕掛けである、という考え)は、宗教の宗派を持つ方にとっては、受け入れがたいものかもしれません。

あるいは、宗教を一切否定する方もいるでしょう。

そういう多様な方の考えを尊重します。

もし、このブログの内容が、そういう方の大事にしているものに触るようなものであれば、申し訳ありません。
「神社建立者の親が死去した家の長男」の珍しい体験談として、どうぞ、笑って見てやってください。


RIMG1421.JPG
写真:在りし日の、父、石井龍輔。伏見稲荷大社の力松大神にて。
タグ:日記
posted by 石井力重 at 11:45 | 日記、価値観、仙台オススメ



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