今回は、会津でのセミナーでしたが、ベンチャーの取締役をしている友人の梅津氏とともに仙台から車を飛ばして行きました。そのセミナーはものづくりの本質に根ざした多喜氏の生き様、思想、事例など大変勉強になることばかり。その中でも特に印象に残るものがありました。
▼手離れ悪くしろ・お客にしがらんで、一緒なって。汗かいて。/汗を流すことがこれからの産業
▼パラダイムの変化。コスト・品質・納期、とは違う視点。/安心・環境・コンプライアンス、それと知財(ブラント、特許)/某産業では、知財をあつめて仕組み・組織を作った。/きちっとやって汗を流すと非常に儲かる。
▼「際(きわ)」を超える。/「結い」「手間がえ」/「ついで」のこともやってほしい。
講演全部の速記メモ ⇒ 新事業創出セミナーin会津.txt
「猫の形の焼き物がうけて量産しようとしたクライアントをとめて、”せっかく高く売れているのにどうして儲からない事業にしようとするのか”として、量産化ではなくストーリー作り(モノづくりはコトづくり)を進め成功した。」という多喜氏の話しからは、現代の経営の難しさを感じました。以下は講演に着想を得て展開する石井の私論です。ヒット商品が出ると生産能力を上げて収益を大きくしたいものです。機会損失を少なくする、なんていったりして。しかし、大量生産されたものをその商品の顧客はほしかったのか。という地点に視点をもどして考えることが必要なんだとおもいます。一方でもともと扱っている商品が100円ショップ向けのものであれば、ストーリーづくりに時間を割いたり、商品の手離れ悪くしたら事業は大きな壁にぶつかるでしょう。一概にどっちか一方の戦略が良い、というわけではなく、狙う市場、事業のモデルがどの位置づけなのかをきちんと把握して戦略を考えることが重要だと思います。

図に描いて考えを整理してみると、安く・たくさんの商品は、ライバルとのコスト競争で、究極的な目標は市場の独占です。一社独占となりある種の「社会インフラ化」というところまでたどり着くとその事業は非常に市場に対して影響力を持つことになります。現実問題としては市場の変化の早さや代替技術による市場の消滅などがありますが。一方、高く・少ない、という商品は、後発参入が促進されるほどの市場規模がなく競争する相手は、一見奇妙に聞こえるかもしれませんが、「顧客」であると考えられます。高付加価値なもの、洗練されたものを求める顧客のセンスを上回り商品をリリースするべく不断の努力が求められます。そして究極の目標は「ブランド化」と考えられます。
ここでは、これら商品の位置づけによって、提供する価値、とるべき基本戦略が異なる、ということを図示することで整理しました。もう一歩議論をすすめると、社会格差の拡大が顕著になっていますが、これにより価格と購買量のピラミッド構造は、より中間帯は細り、底辺層の肥大と上部層の増加にという形になります。商品の位置づけ上、高価格での成功と、低価格での成功はあっても中間的なものは売れにくい、という傾向が今後はますます強まると思われます。
蛇足ながら、じゃあ、高価格と低価格、どちらがいいか、ということを少しだけ検討してみたいと思います。一般に「売上規模や組織は大きいほうが安定する」という性質があります。社員4人の会社と100人の会社では、一人の欠員の影響度が違います。しかし上記のことをふまえて考えるともう少し話は複雑そうです。
■組織人員が多いケース:組織的対応。一人退職しても何とかなる⇒仕事はシステム化⇒システム化されると模倣されやすい⇒特許などの確保が必要。
■組織人員が少ないケース:属人的な技能。一人やめると非常にいたい⇒付加価値にしめる属人的要素の割合が高いと模倣しにくい⇒長期的にイノベータが競争優位を保持しやすい。
こうしてみると、人が多いほうが欠員に対して安定的ではありますが、模倣者の対策に失敗するとすぐに価格競争になる可能性があります。人が少ない場合は欠員の影響度が高いのは確かですが属人的スキルに付加価値の源泉がある場合はなかなか模倣しにくく長期にわたり優位性を確保しやすいという特徴があります。「事業は大きいほうが良い?」という問いも状況により答えはさまざまである、ということを蛇足のまとめにしたいと思います。