2012年02月16日

「アイデアを募る人がするべき創造的努力」

 

「社内でアイデア募集をしたが、たくさんのアイデアが集まらなかった。」

どこの会社でもよくあります。そして事務局は振り返ります。もっと告知を頑張るべきだったのか?もっと提案者へのインセンティブをつけるべきだったのか、と。

しかしアイデアを募集する事務局として注力すべきはそこではありません。(無駄、ではないのですが、投入できる時間も予算も限られているのは確かで、努力対効果の意味では、そこは薄いのです)

2つのポイントがあります。「発想のテーマ」と「応募フォーム」です。



 

 

「発想のテーマ」

発想しにくいテーマで募集しているケースがよくあります。いろんな兼ね合いから見出された発想の方向性。それをきっちり守っているものの発想のお題としては輝きのない、思わず発想力をくすぐるようなところのない、テーマを提示してしまいがちです。


アプローチ1
 

「30テーマだし」

当初のテーマをもとに、それをずらしてテーマを作ります。少し言い換えただけのものも明示的に出していきます。あるいは当初の方向性を逸脱しているものや、半分しかカバーできていないものでもOKです。それはあとで削り込めばいいので、数を稼ぐつもりで出していきます。反対のテーマでもOKです。それらはより良い着想を生むための踏み台として機能する役目も持っています。20を超えるとだんだんでなくなってきます。すでに出たものを組み合わせたり、言い換えたりしたり、という形のものも出していきます。そして30出せたら、その中から、当初の方向性の範疇に入っているものを、選びだし、もっとも魅力的なものを1つ選びだします。(この時、気がづくでしょう。反対のテーマや、逸脱したテーマ案を出したことから引き出されたテーマがあることを)

アプローチ2

 「即興10アイデアだし」

当初のテーマをもとに、事務局メンバー(大抵は2人か3人ですが)で、アイデアを即興で出してみます。応募できる完璧な案でなく、ジャストアイデア、思いつきレベルでいいので、その場でさっと10個出してみようとします。それなりに大変です。苦労しながら出していく中で、気付きをメモに取るといいでしょう。そして皆で合計10を出した後、気づきメモを紹介しあい、より良いテーマを作るためのディスカッションをします。気づきメモには「このテーマは縛りがきつすぎる。どちらかの条件を外したらどうか?」「あいまいすぎて、具体的なイメージができない」など、テーマを再設定するための材料がリアルにたくさん出ます。それらを全部盛り込もうとすると難しいので、ある程度話し合った後、各人が3枚ぐらい、テーマ案を書きます。自然と重要なものをいくつか考える材料にしています。そして、皆で共有して、1つを選びます。



 

 

「応募フォーム」

社内のアイデア募集の事務局は、応募されたものを評価したうえで次の段階へ進めるか、上層部へ提出するかをします。すると自然と、評価しやすい項目を立てますが、応募はしにくいフォームになってしまいがちです。よくあるケースでは、応募者が発想をしようとしてエントリー画面を開いたものの、役所の申請書みたいにすごく項目が多く、思考の順序を無視した流れで、そのうえ、似たような項目も何度も出てきて、応募者はうんざりしてしまいます。その結果、次の3つのことが起こります。
・エントリーが面倒なのであとまわし(そして忘れる)
・名前と、タイトルだけを記入し、案を全部、自由記述欄に記入してしまう(入力しないと進まない場合は、ハイフンなどを入力して進んでしまう)
・真面目な社員だとそのフォームに丁寧に入力してくれるが、記入項目が適切でないなどで、事務局があとで解釈し書き直す(とても時間がかかる)

アイデアという定性的なもの、そして、感性的な部分も含めた内容、それを募集するにはそれなりに工夫が要ります。じゃあ、どうすればいいのか。単純なやり方と、高度なやり方があります。


アプローチ3
 

 「複数アイデアを、エントリーをしてみる」

仮のアイデア募集フォームに沿って、アイデアを実際に入力してみる方法です。応募用紙を埋める前に、まずアイデアを発想しメモカードなどに書いておきます。実際の応募者はそうしますので。それをもとに、案を入力していきます。実際に記入しながら、気が付くことをメモに取っておきます。そして皆で、気づきメモを紹介しあい、より良いフォームを作るためのディスカッションをします。気づきメモには「思考の順番にあってなくて考えにくい」「このアイデアの場合、優れている点を説明するためには、別の切り口で表現したいが、このフォーマットだとそれはそぎ落とされてしまう」など、フォームを再設計するための材料がリアルにたくさん出ます。それらを踏まえて、新しい応募フォームにします。もっともシンプルなケースでは【応募者の名前】【アイデアのタイトル】【具体内容 1000文字以内】だけのフォームになることもあります。

アプローチ4

 「アイデアの3つの評価軸を使う」

そもそも、事務局の中にはアイデアを選ぶための評価軸があります(“え?ありませんよ。いいアイデアを選ぶだけです。”そういうケースも実際はありますが、自社にとっての「いいアイデア」というのは明文化されていない独自の評価軸があります)。アイデアをセレクトする際に重視する評価軸をまず書き出し、その中で最も重要な3つを選定します。そして、応募フォームはその評価軸に対応する形で作ります。この方式は2つの利点があります。応募者は項目を通じて何を重視しているかを察し、その結果、その方向性について考えがめぐるようになります。評価が効果的にできるようになります。あるケースで【新規性】【有益性】【実現性】が評価軸となったとしてこの場合、“タイトル”→“自由記入欄”→「このアイデアの新しい点について教えてください」「このアイデアは誰にどのような有益性がありますか」「このアイデアの実現性はどの程度ありますか?想定される懸念事項とそのうち手があれば教えてください」という感じになります。“自由記入欄の中にすでに書いてある場合は、そのコピーでも結構です。“と添えて。



以上です。

良いテーマとフォームがあれば、これまでも行ってきたタイプの努力(社内に対してアイデア募集の告知を行ったり、お昼や定時後にコーヒーやお菓子のあるブレインストーミング・エリアを提供したりすること)が実りやりくなります。創造的努力は人件費以外にはあまりコストがかかりませんので、ぜひ、募集を開始する前にこの点を振り返ってみてください。
 
 
posted by 石井力重 at 14:20 | Comment(0) | TrackBack(0) | アイデアの技法



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