”創造的な人が登壇し、普通に話し始め徐々に興が乗ってきて、目が輝き、腕の動き、表情は文字では表しきれない複雑であいまいな情報を含み、講演する声の抑揚は、聞いている人の心拍数を高めるぐらいにわくわくとした疑似体験を相手の中に生成させる。”
そういうことを何度か経験しているうちに、昔読んだ小説の話をふと思い出しました。確か商売をする女性の話だったと思うのですがこんな話です。
”その女性は、相手の男性が眠ってしまうと、暇を持て余しその人の寝息にぴったり合わせ呼吸をする、という遊びをした。そうするとそのうちに自分も眠くなって寝てしまうのだけれど、奇妙なことに相手の見ている夢と同じものを見てしまう。しかし、それは精神的に疲れてしまい、危険なことなのでしないようにした”
そんな話だったと思います。
相手の頭の中で起こっていることを寝息から再現する、というのはあまりに高次な脳活動の再現する情報量としては少ないので難しいとして、でも、次のことはあり得るかもしれないと思うようになりました。
人の脳波いろんな複雑なことを考えます。脳の活動のある程度サマリアップされたもの(脳波もその一つ)が、身体的な出現(寝息や表情)として出てくることがあります。
それを、他者が呼吸や表情などの模倣という形で、正確に長い時間、相手の身体的出現特徴を真似し続けることで、それをある程度相手の脳の状態のサマリアップされたものを脳内で再現し、その人が感じていることを大まかに理解することができる可能性はあるのかもしれないと。
人間は、潜在意識では理解していない情報を脳の刺激としては受け取っていることがあります。60ヘルツと50ヘルツの蛍光灯があった場合、同じ光に我々は見えます。ただ、脳波を測定するとその周波数で脳波が出現していて脳波から見ると脳の方はある程度周囲の、認知が不可能なぐらいの情報も甘受しているようです。
そう考えると、身体的な動きや声の抑揚などを自分の中で、受け入れて再現していくうちに、相手の「頭の中で感じているものを再現する」ことはきっとあるのではないかと思うにいたりました。創造的な人の講演中に行う身振りや手振り、瞳の開け方、声の出し方、そういうものが、人を創造的な気分にする、それはたぶんそういうことなのではないかと。
そして、そういう人の話には、フロー状態のように、深く没入して時のたつのを忘れて、アドレナリンの快感と緊張に体が力を使い、そして終わった後、ぼんやりと脱力し、もっと聞いていたかった、もっとその素敵な状態に浴していたかった、と思う部分でも、似ています。
人間の思考状態というのは(ある条件を満たした環境下では)伝染する。
この仮説を一つの視点としていろんな物事を見たときに、少し見えてくるものや、新サービスのヒントがある、そんな気がします。