2012年06月25日
心の中の筆
文字と原稿の能力を回復させる、ということについて、最近感じたことがあります。
心の中の筆、という概念です。
書のリハビリをした
私は小学生のころ、書道が五段でした。ところが学校が上がりペンで早く書く癖が付きました。ペン字は乱れました。大人になるとさらにペン字は減り、時々役所で各書類の汚さに辟易しました。でも筆で書けば達筆!というひそかな自負がありました。しかしショックなことがありました。ある時友人の結婚式で、本物の筆があったので、名前と住所を書いてみると、ひどくみすぼらしい帳面汚しの文字があらわれました。習字の腕も消えてしまったのだと私は悲しく思いました。
もっと大人になり、今、iPadとそのアプリZenbrushで時々、デジタル上での習字をします。初めはひどいもんでしたが、ある時から、納得できる水準で書けるようになりました。そのある時というのは、心の目で白紙の上に文字を書いてみる、という作業を思い出した時です。
普通、書道であれば、硯に向かい、半紙を置き、文鎮で抑え、筆にすみをつけ硯のはらで筆を整えたら、すっと紙に書いていきます。その前に、筆を握らずに、半紙の上に腕を浮かせて実際に書くかのように、筆先を想像して腕を運んでいってもじを、心の中で書きます。いわば、「心の筆」で半紙に見えない文字を書きます。何度かやると、バランスが悪いな、とか、あ、ここがかすれてしまった、という感触が出てきます。そして、完璧な一枚が仕上げったら、本物の筆を握ります。これが本当に正しい練習方法かわかりませんが、少年時代の私が筆の運びをなんども想像して書いた方法でした。
その方法を思い出した後、何度か、いわばエア習字、をしていくうちに、均整のとれた文字が書けるようになりました。こうして、少しずつ、書道の腕に関するリハビリをしていきました。
原稿のリハビリも要る
私は最近、原稿を正しく書く能力を失っていたと思います。長い文章を書くと、前半と後半で主語が違っていました。主張したいことのポイントもあいまいでした。そして、ようやく書き出せた文章は、エッセイとしての基本構造を欠いたまま、私の外に出されていました。(このように書くと、他人事のようですが、悪いのは自分です)。そうなると、自分が書いた原稿が何かの誌面になった時にその質の悪さに読むこと辟易しました。美しい編集をしてくださるものにはほっとし、ほとんど無編集で通っている原稿には、あまり目を向けられなかったように思います。どうして文章を書く能力を失ってしまったのだろうと悲しい気持ちになりました。
そして、気が付きました。これは、書の能力を失っていた時代に感じた感覚に似ている、と。
私は最近、コミュニケーション重視の短文入力スタイルのWEBサービスをよく使っていました。そして多くの知らない方の文章も大量に見ている日々でした。その中では、なんども、なんども、矯正がかかります。より、反応のされる文章というのが、扇情的なものあったり、食べ物や小動物の話であったりします。私もそういう文章を自然と学習して使うようになります。そして、だんだんと、遂行や編集なしに、書き、公開するということになれて、それが原稿を書く行為にも大きな影響を与えてはじめました。
それはそれで、悪いことではないと思うので、これからもそれを使い続けます。ですが、私の中で、ここにきて取り戻したいと気が付けた感覚があります。それは、「心の中の筆で、書く」という行為です。
最近しがちだった「言いたいことを言い始めて最後の方で文章の主語すら変わっているようなねじれた文章」「文字数が足りなくなり、文章の後半がきわめて大雑把になっている文章」スタイルは、いずれも”書”で言えば、全体の構成を想起することなしに、一画目の線を引いてしまうようなものです。そして一画目に合わせて二画目も引きます。それをしていくと、半紙のサイズが足りなくなります。仕方ないので、後半側の部位を小さくして何とか書き上げます。それはいびつでひどい文字です。そこには文字情報という観点で言えば、必要十分な情報はありますが、書道というのはそれだけではありません。情報伝達の他に、手書きのフォントがまとうべきさまざまな非言語情報を含意しています。私は文章をかくにあたっても自分の最近の文章に全く同じような、いびつなものを感じて今いた。
ならば、解決への糸口は見えます。「心の中の筆で、原稿を書く」という行為です。
心の筆で、なんども、書く
何であれ何かしらのメッセージを伝える文章には基本構造があります。それはいくつかありますが、私が好きな構造は「物語構造論」的な構造です。これは説明的に表現するならば「障害と、助けと、たどり着く将来」という構造をしています。
そこで、その基本構造は、いわば、心の中の”半紙”です。まず最初にすることは、自分が表現したい概念をこの構造(半紙)の上に投影します。足りないところは補い、多すぎるところは削ぎます。なんどかしてみると自然とバランスの良い流れが見えてきます。こうすると、収拾のつかなさに悩んでしまうようなことがへり、言いたいことを、適度にバランスのある文章として紡ぎだせます。
もちろん、何千文字もの文章を頭の中で明確にかけるわけではありません。そういう大きな概念を書きたいときは、その大きな構造をまず作ります。考えは簡単なメモにします。それは、章立てとして生き残ることもあります。そして、次に、具体的に、心の中の筆で文字を書ける量≒1パラグラフ(200~400文字)毎に、文章を心の中の筆で何度も書き、バランスが取れたら吐き出します。こうすると、単にInformationの集合体という「編集のされていない”疑似”文章」を書きあげてから途方に暮れることがなくなります。そして、編集作業も基礎工事からやり直しということはすくなくなり、文章を書くことが楽しくなります。
美しい書を書けると、筆をすっと半紙におろすのが楽しくなります。書いたものは、本人にとって、字ではなく書になります。これと同じです。美しい文章を書けると、万年筆をすっとノートにおろすのが楽しくなります。書いたものは、本にとっては、文字列ではなく文章になります。
これから
今日、書いた2つの文章は、さほど、心の中の筆で何度も書いてみる、というプロセスを経ていません。まだ、「一画目からとにかく書いてしまう」文字列の集合体です。しかし、書きながら、思い出した「心筆」の概念は、徐々にいろんなところに根を伸ばして、徐々に文章を書く力を回復させてくれるでしょう。私自身があとでまた読みたいと思える文章を紡ぎだせるように、すこし落ち着いて文章を書いてみようと思います。
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