2013年06月30日

takram 渡邉康太郎さんの講演(+α)を聞いてきました。

6月28日。仙台のAER28階で、ファンドロイドのセミナーイベントがあり、takramの渡邉さんのお話を伺いました。

講演内容をブログで紹介する前に、takram(タクラム)さんについて。IDEOやカヤックといった創造的な展開をする企業が生み出すものと近いものを感じる企業さんです。作るものも、スマートフォン上で動くソフトウエアであったり、空間インスタレーションであったり、自動車メーカーのコンセプトモデルの高度なインフォメーションシステムであったり、と多彩です。

正式名称は、takram design engineering で、デザインとエンジニア、ソフトとハード、この2軸4象限に跨って面白い仕事をされています。

事業領域の広さをうたっているというよりも、デザインとエンジニアリングの垣根をなくしたい、コンセプトワークとモノづくりを車の両輪のように、有機的な連動させて、クリエイティブな仕事を展開していく、そんな魅力的な姿勢の企業です。



1.メソッド
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同社のWEBサイトを拝見すると、Our Methodの所に

◎ Rapid Prototyping
◎ Storyweaving
◎ Problem Reframing

とあり、それぞれに、感銘を受ける面白いナレッジがあります。

私は仕事柄、研究開発部門、商品企画部門のアイデア創出フローのディスカッションによくよばれます。その関係で、「石井さん、これこれの能力のある企業さんか、こういう話をできる専門家をご存じありませんか?」とよくたずねられます。takramさんもまたそういう折にご紹介させていただきたい企業さんの一つとして、心に深く残る出会いでした。

渡邉康太郎さんのご講演の内容は、一部、守秘性のある部分があり、(そのトーク部分はUstreamの配信も中断)、また夜の宴席で深くお伺いした部分もありますので、講演の中身をなぞるよりも、オープン情報を参照しに行きつつ、石井なりの解釈で再構成した文章を綴ります。




watanabesan.jpg


2.プロジェクト
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仕事の例、としていくつかお話しいただきました。私なりに、同社のWEBサイトやインタビュー記事をさらって、石井コメントも付しつつ、紹介します。

● MUJI NOTEBOOK
http://www.takram.com/?page_id=52

これは、良いアプリだということで出た当時、スマフォの界隈、ソーシャルメディアの上でも有名になったので記憶にある方も多いと思いますが、これもtakramさんの参画した仕事だそうです。
このページには動画があります。講演ではその様子を口頭で描き出してくださいましたが、ビデオで見るとまた深い理解が起こります。
渡邉さんの言葉を書きとった私のメモには「群知能/300個がお互いにネットワーク/光と音の波紋が広がるようなもの/水面のように見える/近傍とのコミュニケーションの中で動く」と在ります。
人がたつとその上の風鈴がなる。風鈴は隣の風鈴がなると少し遅れて少し減衰して光る、という単純なルールだけを持っている。それが規則的に配列されていると、一つが光るとワーッと意思のある総体のような動きをする。これは自然界の魚群に見られたりします。全個体が持つルールはシンプルでも全体の挙動はとても複雑になる様は、コンピューターシュミレーションや小さいモーションロボット群の動きで時々表現されたりしますが、とても面白いものです。ビデオの中ではこれを【ローカル・ルール】【グローバル・エフェクト】と呼んでいます。この2つの言葉は示唆に満ちていて、しばし考え込みました。私が設計するアイデアワークショップ、その場の中の個体(参加者の方)同士のコンタクト時のルールとして、シンプルなものを定めてワークをやることで、ただそこで懇親会をしているのとは全く違ったところに1時間後にたどり着きます。グローバル・エフェクトを生み出すような、よいローカル・ルールを設計できた時、場というのは無理なく、高度なアウトプットを生み出す、そのことに今一度深く光を当ててみたいと思いました。

その他、動画では、風鈴の配置をめぐるさまざまな工夫と設計思想が語られています。渡邉さんの言葉が認知心理学を収めた人っぽく感じられたのですが、ビデオの中で(多分、田川氏だと思いますが)語られている「水平方向についてはかなり良く取れるが、人間の耳は垂直方向の差にはあまり敏感ではない」という特性に基づき「光源と音源を分離した設計にする」というあたりは、唸ってしまいます。

また「風鈴の高さに変化を付ける時に、X方向、Y方向に異なる周期のサインカーブを適用することで、単調さを出さない。どこにも水平な線がない」というあたり、海や池の水面もつ、特定の特徴点はないような時間平均の一様性をもっているものの、同じ姿の水面は二度と生じない、という自然の織り成す無限の多様性のエッセンスを、少ない関数ですっと表現するあたりも痺れます。
このページにもメイキングの動画があります。実際の空間の様子はとても良いものですし、それが作れていくまでの過程もまたいいです。

渡邉氏のコメントを書きとめたメモには「小動物の鼓動のような振動」とあります。このビデオか、説明文か、あるいは別のサイトのインタビューかで、読んだのですが、光源ユニットが電球モチーフの容器のソケット部にあり、電球の球状部分には水が入っていて、その水に向けて二本の電極が伸びていて、そこにはわずかな電気がかかっており、人が電球を下からそっと包むと、電気の逃げ場ができることで、(たぶんスイッチが入って)モータが回る、モータは重りがついていてバイブレータのような感じになる、このコンセプトで、実際に小動物の鼓動のような感じに震わせるのは、大変だったとも。
このページには、実際に動く姿があります。制止している姿は、前衛的なバネクリップか、タイプライターの中に入っていたワイヤー機構部を出してきたかのような感じですが、動いている姿を見ると、虫の「ささささっ」という有機的で素早いあの姿にそっくりです。渡邉さんの言葉を書きとめたメモには「バイオミミクリ」と在りました。生物模倣を工学に用いる考え方で、バイオミミック、とか、バイオミミクリ、といわれ、サメの肌の形状から高速水着とか、トカゲの手のひらの無数の毛がファンデルワールス力を用いて壁に吸着できることを利用したものなど、最近の工業製品開発にはよく発想材料としても用いられる方法です。

ビデオを見て開発の工夫などを聞いていると、それもありますが、それ以上にいろんなことが考えられています。3足が常に接地するので安定する作りであるとか、ワイヤが飛び出す足の本体取付部分がゴムでできているために地面をける足の角度が有機的にかわることなど。ビデオではちょっと外側に膨らむ時に子犬が見せるようなかわいらしい挙動を出現させながら曲がっていきますが、この辺が、蹴り出す足と本体部の固定をソリッドにしないことから生じているのかもしれません。単純なモータの駆動であんなに有機的な昆虫的疾走をする姿を見せられたら、ため息が出てしまいます。

tagtype Garage Kit (講演にはなかったですが)
http://www.takram.com/?page_id=73

どこかのインタビュー記事で、お話しされている時に New York Museum of Modern Art のパーマネントコレクションになっている、親指での入力の機器、tagtype 、というものを語られていたのですが、このサイトにありました。このかわいい蝉のようなフォルムの機械、クローズアップ写真を見て分かりました。(多分・・・)両方のハンドルを握り、親指でそれぞれ5つのキーをタイプする。日本語は「あ/か/さ/〜/わ」の10行と、「あ/い/う/え/お」の母音5つからなる。はじめに、インプットしたい行のボタンを親指でおさえ(左右のどちらかに必ずある)、空いている反対側のキーの1〜5が自動的に母音入力に割り当てられてその母音を押す、そうすると、その操作で1文字入力される。(・・・というものなのでしょう。)これは、幾つかの指を失ってしまった人などでも充分に使えるし、腕の動きを考えると腱鞘炎にもなりにくそうでいいですね。もっとも力の強い親指に仕事をさせる、というのは。

●Hitohi
http://www.takram.com/?page_id=%203224 (←多分、テンポラリーなURLかと)

写真と説明が展開されています。しっとりとして、感性的な情感を和菓子だけここまで出せるのかーと、写真を見ていても思います。説明文を読むと更にまた示唆がたくさんあります。
トヨタのコンセプトモデルのための Onboard Infotainment System もされたそうで、動画でも面白いです。メモを見ると「ワーキングプロトタイプ/ハードのエレクトロニクス/ファームウエア/動くソフトを作った」とあります。実物でなく、それ相当の、ビデオモックアップを作るというやり方を昔訪問したパルアルトのIDEOで聞いたので普通はそういうものだと思っていたのですが、takramさんでは、そういうレベルまでされるとのことで、これはデザインとエンジの横断的な仕事力の高さだなぁと。(もちろん、IDEOだって、物まで作るとなれば作るのかもしれませんので、この辺については、詳しくはどうこうと言えるだけの知見は私にはないのですが。)

●Shenu(シェヌ): Hydrolemic System
http://www.takram.com/?page_id=699

これは、ヴェネチアのビエンターレに匹敵する、ドイツのdOCUMENTA(ドクメンタ)という現代美術の大型グループ展でtakramさんが出展された作品です。ちなみに、ビエンターレは、二年に一回です(ビエンターレ自体が2年に一度、を意味する)。ドクメンタは5年一回です。(ちなみに、ドクメンタは”時代の記録”という意味だとも)。

この展示会は、ディレクターがいて、作家を指名して、制作する、という形で、彼らを作家として指名したのは(ディレクタ、ということだと思いますが)韓国の方だそうで、出された作品テーマは、100年後の水筒、とのこと。彼らはそれに対して、面白い(そして没になる)提案をします。はじめは、スイカ的な畜水の植物で、というものや、炭鉱のカナリヤのよろしく、携帯できる小魚水槽で、水を発見したら投入してみる、といったものを提案するも、芳しくない。彼らは、水筒を作る、ということ自体を考え直します。(冒頭に書いたProblem reframing、をするわけです)。

そして、彼らの出した答え、作品というのは、人工臓器、という作品です。成人男性は、2.5リットルの水を飲み、その分の水を排出。100年後の世界にはほとんどきれいな資源が残っていないという世界観設定の中で、水のない中を冒険して進んでいかないといけない人に、水筒を持たせるのではなく「出なくさせるか、出たものを戻させる」という方針で、4つの人工臓器を付ける未来を提案します。水分を失うのは、呼気、汗、尿、便。鼻には多孔質の人工鼻腔。多孔質を通して外には乾いた空気を送ります。乾燥地帯の生物(カンガルーラット)が鼻腔に沢山の毛をもち同様のことをしている生物がいるということで、バイオミミック的に。汗については、発汗を抑えるために体温の上昇を抑えようと。脳が大きな熱源ということで、首輪を装着し、首に埋め込むデバイスが体温の冷却を担うということで、サメ肌のような形状の首輪は非常に大きな表面積を持ち、人体の3倍の発熱をする能力を持つと。尿に関しては人工尿道で濾過してまた膀胱へ。便に関しては人工肛門を配し、そこでは遠心分離のような形で水分を抜いて体に戻し、非常に乾いた糞だけを外に出す、というもの。そしてこれだけやっても、2.5リットルとは言わないものの、百数十ミリリットル、約1/10ぐらいであっても失うので、最後に飴を用意。そこには水分とミネラルが入っていて一日に失う水分を摂取できる、と。

この作品については、もともと設定されている世界観に影があり、100年後の地球・壊れた世界、できれいな資源のほとんどない中で人類の若者が(たぶん資源獲得のための)冒険の旅に送り出されるがその際の水筒システムということで、動画の雰囲気も、作品のつやっぽい質感、すこし扇情的なテイストの飴の色、などが作られているそうです。

●Storyweaving(ストーリーウィーヴィング)
http://www.takram.com/?page_id=46

これは本としてアマゾンからも買えます。

彼らの仕事の作法、それを体系的に表現して、多くの人が再現可能な考える型や手順にした、というもので、とても興味深いものでした。本を読むだけでもその鱗片を垣間見られます。

渡邉さんの言葉をメモしたものには「takramにいろんな企業を集めてワークショップ、作って最後にそれをまとめて本にまで」と楽しい語り口で紹介いただきました。このストーリーウィーヴィング(weaveは、編む、という意味)の話は後半更に深く興味を持って聞いていったところですので、詳しくはそこで。


・・・

彼らの仕事のうち、公開可能なワークが20〜30%。これが講演やWEBに挙げているもの。一方で70〜80%は非公開の案件です。案件の存在自体が非公開であることは、クリエイティブ企業の宿命です。収益を太く生み出すような案件というのはクライアント社内にとって重要性がとても高く、組んで動いていることは守秘事項。私もかなりオーブンに情報発信していく方ですが、仕事の半分以上は、パートナーや家族にさえも決してしゃべらない守秘性のある仕事です。企画の初期段階の仕事は、商品戦略や特許取得可能性などのデリケートな要素が多いですから。

以前うかがった企業さんでは、公開可能な部分で思いっきりの遊びをしていました。クリエイティブ系の先駆的な企業は、公開可能な自主事業で収益性を度外視してもコンセプトを形にしていく、それが領域の先駆け的実績となり、開発要素の多い案件の依頼が来る、そういう戦略なので、収益化を考えずコンセプトを先鋭化して具現に至らせることができるそうです。公開仕事は、ぶっ飛んだコンセプトの方が、既存のクライアントの案件にかぶらず、自由に腕を振る、という部分もありましょう。

takramさんの講演とWEB上の情報だけを読み込んで、あまり勝手なことも言えませんが、公開可能な仕事にみる、モノづくり(&物語)、のレベルがこれはすごいな、と唸るレベルのものばかり。個人的には、tagtype、Phasma、Hitohiは、”モノをして語らせしめる”というか”見た人が、思わず誰かに喋りたくなる、見たものを引き付ける魅力”がある、と感じます。



3.プロブレム・リフレーミング
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 『 Problem reframing (プロブレムのフレームを外す) 』

ここについては、自分の中で、聞いたコンセプトと、既存の知識への深いアクセスが起こって、(つまり、深く考えながら聞いて)あまりメモが取れていません。講演の様子をメンバーの小泉勝士郎さんがつぶやいてくれていたものをまとめたもの(togetter)がありました。

そこを見ると『問題を捉え直す。枠を再設定する。』とあります。

先に挙げたプロジェクトのshenuがそのよい例であり、takramさんのWEBサイトには、こうあります。

Approach – Reframing the Problem

After a period of thorough research and analysis, takram reached an uncanny solution. The idea of creating a water bottle was rather unrealistic, given the limited supply of water in a devastated condition caused by water pollution and so forth. Instead, our conclusion was that it would make more sense, in fact, to regulate how much water the human body can retain and recycle in this dire environment. This revelation resulted in the Hydrolemic system, a set of artificial organs. This was our interpretation of the given theme; instead of creating a water bottle, we treated the human body as a water bottle thereby creating necessary artificial organs. 

引用元 takram webサイト Shenu: Hydrolemic System  

後半に「our interpretation of the given theme」とあります。荒廃した世界の水筒、というテーマは、水筒を作るというテーマを解釈して、人間が必要な水を得つづけることにテーマを再設定したわけです。そうすると、人工臓器、だと。

この話を伺いながら、私は2つのことを思いました。

一つは、創造技法の文献を大量に調べ標準化したときに「テーマを再設定するステップ」が発想の前にあるとしたこと。KJ法(日本)、TRIZ(ロシア)、CPS(米)などの発想技法には、発散の前にそういう技法フェーズがあります。

もう一つは、IDEOの仕事。IDEOがBank of Americaから顧客増を狙えるカードをデザインしてくれ、といわれて、最終的には「端数のおつりは別口座に貯めていく、買い物をするほどに貯金ができるというサービス」Keep the Change を作り出したこと。

(私はこれを良く言い間違えて、”take the change”と言ってしまいますが、これでは”おつりは貯めておいて”じゃなく”おつりはとっとけよ(あげるよ)”という逆の意味になっていますね。訂正します。)

プロブレムをリフレームすることは、創造領域の仕事ではとても大事です。

が、実際は難しいのも事実です。

自由度を許容するコンセプトワークのような依頼や、自社プロジェクトの場合は、Problem reframing ができるとしても、クライアントワークや、インハウスのクリエーターであれば上層部や他部署の要件定義として動かせない「Given theme」があります。

”そういう場合はどうするんです?”

と、渡邉さんに伺いました。すると彼は気さく答えてくれました。

「そういう場合は、まず***をして、それと同時に***をするんです。すると・・・となります。」

と。

(情報の性格から、伏せておきますが、秀逸な回答をいただきました。)

回答を聞いて私は、深くうなずきつつ、”挑戦者にとって役立つやり方”をまた一つこころに刻んでいました。

彼の言葉を書きとったノートにはこんな言葉がありました。

「椅子屋/従来/椅子作る/努力して売る/
 椅子屋/プロブレム・リフレーミング/アート的な先駆/他の業種ドア屋が欲しいと言いに来る」

言葉を補えば、陳腐な表現をしてしまいそうなので、文章化することはやめておきますが、相談に行ったときにテーマそのものを再定義することができる企業さんというのは、すごく貴重で、かつ「自分たちで依頼をより大変なものにしていくことを辞さない姿勢」があることも分かります。未来の水筒を作るオーダに対して人工臓器で答えるというのは、その姿勢が垣間見られます。



4.ストーリーウィーヴィング
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ストーリーウィーヴィングを読んで特に興味を持っていた、takramのワークショップの中身について話してくれました。ワークショップの中身について話す、というよりも、彼らの「作りの作法」を、論理的に、かつ、叙情的に、語っていく、という時間でした。

渡邉さんの言葉を書きとったノートにはこうありました。

「(旧来A・・・)コンセプト・ドリブン(決めた仕様はずらせずそれに近づけるスタイル)」
「(旧来B・・・)後づけStory(後から製品コンセプトを付与するスタイル)」
「コンセプトも、ものづくりと同じようにPrototypeできないか?」
「物理とコンセプトを同時に開発」
「後戻りを許す」
「**と言えるためのよりどころ。究極的哲学」
「作りながら語る。語りながら作る。」
「Storyweaving 具体と抽象を(相互に作用させて収斂させていく)」
「聞く人全員を語り部に」

この辺は、石井の言葉をまとって再説明して良いものか、デリケートな本質は、やはりtakramさんの本を読んだり、講演を聞いたりする方がいいとは思うのですが、私の表現でここではとりあえず、書いてみます。

従来の開発は、初めにコンセプトがバシッとあって、これが目指すべき北極星。ずらさない。これがブレのない開発のよりどころとなります。(コンセプト・ドリブン)。要素技術が生まれてそれをもとに製品ができてくスタイルもあります。(シーズ・ドリブン)。

余談ですが、ナンタラ・ドリブンの例で言えば、確かMOTの博士課程時代に聴講した大見先生の講義では、大見先生の半導体グループはターゲット・ドリブンというスタイルをとっておられました。シーズ・ドリブンではユーザ不在になり、かといってニーズ・ドリブンでは、巨大産業でロングタームの開発である半導体では、目先のニーズに合う頃には時代も顧客もずっと違うところに行ってしまう、その究極的な方向性(ターゲット)を描きだし、そこから割り戻して考える、という方法です。(私の専門領域で言えば、TRIZのIFR=究極の理想解、よる開発コンセプトの設定方法に、似ています。)

講演に、話しを戻します。

いずれにしても、ナンタラ・ドリブンは、ドライブフォースを生む存在があり、それはずらしません。それに対して、Storyweavingの考え方は、ずらします。

コンセプトができて、試作してみて、試作してみると分かってくることがあって、それがコンセプトをさらに発展させる。そういう「コンセプト」と「プロトタイプ」の相互作用の中でより良いものを生み出していく。

とはいっても、どこまでも脱線していくかのように、ずらしていくのでは、ただのドリフト(漂流)になりますが、彼らは「幹」と「枝葉」という考え方をしていて、そこを担保しています。幹は根幹をなしていて、具象物というか、コンセプトの中でもレイヤーがあるわけで、より具象的で交換可能な要素(枝葉)と、どんなに枝葉をいじろうとも、そこにずっとある「根幹」的な中心的な抽象概念があり、その「幹・枝葉」の扱いを、メンバーの皆が把握し、最大限の許容度を生みながらも、ブレない開発、というスタイルをとっています。

ながく石井なりの説明をしてしまいましたが、先に引用したtogetterの中に、渡邉さんの言葉で、こうあります。

『「ものづくり」と「ものがたり」。ストーリーウィービング。大手企業では仕様を作ったあとそれを守ることが絶対になるコンセプトドリブン。もっと素直に地でいってみようというもの。ぶれてはいけない根幹の思想を幹、ひとりひとりが膨らませられるのを枝葉』

と。

この2、3行に、storyweavingの説明が圧縮されています。

さて、以下に、少し具体的に、ご説明頂いた(+補った)ワークショップの中身について。(タイトル脇のページ数は『Storyweaving』のページ数です)


■2つの絵を見せて、共通点を探させるワーク

(これは、少人数グループになった後、二枚の絵を渡して、グループで話し合ってもらって、共通点抽出というコンセプトワークに慣れてもらうのに最適かと。著作権の切れた名画というのがありますので、それを使ってもいいでしょうし、現代のドイツのボードゲームの中から、Dixitあたりを持ってきてもいいでしょう。)


■90seconds(90秒で本を語るワーク)(参照:P14)

エレベータピッチ・プレゼン(=役員とたまたま乗り合わせたときに、自分のアイデアを伝えるマイクロ・プレゼン。通常はコンセプトの本質と魅力を伝え、後で部屋に来て詳しい話をするように、と「次」をもらうことを狙うもの)的に短時間で行う。幹と枝葉を定めて伝える練習になる。「本や知識の共有」「自己紹介」「語り方を考えるきっかけ」という3つの側面があるとのこと。

(やり方)お奨めの本を1人一冊持ってきて、4人組になり、90秒でその本のプレゼンをする。聞きたくなるように紹介する。時間が来たら意見交換を90秒。紹介者を交代して繰りかえす。

なお、Aさんがプレゼンした本の「幹」に対し、その後の90秒の意見交換では、Bさんが質問をしたりして周辺をしろうとしています。これはBさんなりに「枝葉」を載せている行為。これのワークは、幹と枝葉、という概念の分解能を上げてくれそうです。

ミーティングの前にこれをやる、本もそのプロジェクトに関係ありそうなものにする。というのもいいそうです。

これは、いろんな応用が利きそうで面白いです。屋上屋を架す、になりますが、自己紹介とは違った形で人となりをしれ、グループの凝集性を高める効果がありそうですし、私がよくやる「他己紹介」というワークと、目的は一緒(メンバーの親密さの向上)でも、発言者の役割が「オーソリティー」になるか「セールスマン」になるか、という全く逆の側面があります。以前友人Tさんが「他己紹介は緊張感が高まる」とおっしゃっておられて、心にとめていたのですが、謙虚でインテリジェントなその方のパーソナリティーを鑑みるに「90seconds」によるアイスブレイクだと、すごくエネルギッシュに参画されそうで、良い状況が想起されました。準備物(各自が本を持ってくる)がいることと、3分で終わる4人の他己紹介にくらべて時間がかかる点もありますが、条件がそろえば、これは是非やってみたいです。(自分の書いた本を持って行ってもいいルール、自分の本は除くルール、など試してみたいです。)


□ 「十四夜」(参照:P15)

無関係な二冊本を用意し、3〜7人ぐらいのグループで10分ずつ観賞。文字の全くない絵本を使うことも。(文字のない本、というと、The Arrival - Shaun Tan とかもよさそうです。)
ファシリテータが質問リストを作りそれに沿って、似ている所、違うところ、などを、議論。
是認で共有できると部分はあるか?各人の意見がばらつくところがあるか?という二点を明確にする。

これは、幹と枝葉というStoryweavingのワークショップの知識構造を把握するためにも役立つアイスブレイクだそうです。


■Tangent sculpture(タンジェント・スカラプチュア)(参照:P16)

タンジェントは接線。三角関数のサイン・コサイン・タンジェントのtangentは接線という意味だったんですね。さんざっぱら数学科時代や物理学科時代に扱ったものの、接線、という意味を知らずにいました。

スカラプチャーは彫刻。

接線による彫刻、という概念です。

ある曲線がシンプルな方程式で、ユニークに表現されるけれど、代わりに、色んな具体的なXの点におけるYをプロットしていけば、そのプロットの集合は、方程式であらわされる曲線を近似的に表し、集合内の点の数を増やしていけばそれは本来の曲線に漸近していく。ただこういう説明じゃあ、集合論とかヒルベルト空間とか、そういう数学的概念がある人にしか分かりません。

takramさんの表現は美しいなぁと思うのが、これを彫刻というモチーフで具体物で比喩したことです。

例えばここにゴロッとした木のブロックがある。その中に収まるダルマを掘り出そうとしたら、荒彫りして仕上げていくわけですが、荒彫りの段階のノミというのは真っ直ぐにしか彫らないわけで、掘り出したい外形の凸点となる部分に向けて、空間接線を入れていくようにノミをふるいます。それをいろんな地点でやっていくとただのブロックがだんだんとダルマの形になっていくわけです。そこには、3Dデータで描いたダルマの表面データというものは用いなくても、いろんなポイントで接線をつけてやったことで物の輪郭(アウトライン)が見えてくる、というわけです。

企画のフィールド内において、コンセプトを掘り出していくというのは、木とノミでダルマを掘り出すよりも、更に難しい思考活動ですが、全ての部分の輪郭を厳密に表現できる単純な言葉なんて存在しないような、デリケートな輪郭を持ったコンセプトの場合は、tangent sculpture はとくに良い思考の仕方だと思います。

さて、この「接線による彫刻」(私風に言うならば、具体的な数値を持ったディスクリートポイントの集合を用いて、近似的に、晋の曲線を表現すること)ですが、具体的には面白いワークとして、さらっと体験ができます。

「対象を、”名を言わずして語る”」

これは、何対象を一つさだめ、それが持つ「複数の側面」を言葉で説明し、そして、それが何であるかを当ててもらうというワークです。

複数の側面とは「形状/物理/科学/観察/音楽的/文化人類学/民俗学/文化」などの側面です。

ネタバレしないように、別の物品例で言いますが、”草履”を例にするならば、「それはほとんどの平たさと虹のように平面からそり立つ二つの弧をもつ。柔肌をいばらのように赤くさせるが慣れればしっくりとした頼もしい感触となる。仮に無人島に流れ着いたときでも一〜二年のうちにそれは形を成すことができるものである。よく見るとそれは複数の層とひどい摩擦により自己の一部を失った後でも機能し続けるような有機的な構造をしている。・・・近代に人々は靴を得てそれを使わなくなってしまった。」といった具合に、12行の説明文章を作ります。そして、それがなんであるかを当てます。

実際に講演でも皆に立ってもらいやりましたが、分かった人から座っていくというゲームは多分小さいグループの中でやっても面白いでしょう。普段、一言に圧縮した言葉を使って分かったつもりでいることや、みんなが正確に共通して認知しているつもりの事柄でも、つまびらかに話せば枝葉が違い、感じ方、のようなテイストはかなりばらけている。そんなことは良くあります。

このワークには、「対照の本質を理解する」「暗黙知の明文化」「本質の再定義」という側面があるとのこと。

こういうワークをいかにして思い付いたのかも、創造工学的な観点からは、興味深い所ではあります。



■Idea chromato(ディタッチメントとアタッチメント)(参照:P17)

具体的なアイデアが出そろい、一つの決定案に絞り込まれた段階で、発案者以外のメンバーにもそのアイデアを分解してもらう。20分。

分解では、配布されるリストに従って、作品の機能、意味、メッセージなどを書く。

分析の間は会話を禁止し、あえてブレを増幅させる。

それぞれに記入した内容をもとにディスカッションを進める。特に各人の差異やずれを明確にしてく。

それをもとに、作品を構成する「魅力」「交換不可能な要素」「交換可能な要素」「幹と思われるメッセージ」「枝葉と思われるメッセージ・解釈」を仮に定める。

アタッチメントは愛着をもつところ。非作者メンバー全員が作品のような状態になっていく。

ディタッチメントは切り離しすること。作者を作品と切り離し客観的な観点を持つ。



このプロセスは、曖昧な創造的活動の中に時折垣間見られるフローを、かなり本質化して再現可能にしています。

(長い余談ですが、[1]京都精華大学の漫画学部・ストーリー漫画コースの三回生に、毎年春、ブレインストーミングの講義をしていまして、教授のさそうあきらさんと共に、プロットを生み出していく漫画家の中の知的営みを伺っては、それをそぎ落とし要素化し、再現可能なぐらいに単純化して、生徒さんにブレインストーミングの方法として実践してもらうことをしています。(部・全・細:ブゼンサイのプロセス、と内心名づけたワークで、その名称は不評なので、削ぎ落しワーク、と平たく読んでいますが)。[2]また、作者と作品を切り離す、というのは、考具のかとうまさはる氏が、アイデアスケッチの説明の所で、同種の概念を語っています。[3]また、頻繁に5分ペアブレストをした後、他者のアイデアを書きとってアイデアスケッチを書くと、発案者がそれを書いたスケッチよりも、投票時に上位に来る、そんなことも実によく観察されます。発案者に伸ばしてもらう以外に、芽生えさせた苗木に接ぎ木をするようなアイデア発展の仕方にも一定のよさがあると感じていました。長くなりましたが、Idea Chromatoは、それをさらの個別の要素をミキサーにかけて練り上げ、2段階ぐらい挙げたような洗練具合です。)

本ではわずか1ページでさらりとかいていますが、これは、クリエイティブ系の領域でチームで仕事をする多くの人にとって、とても有用性の高い知識だと感じました。



5.質疑応答
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こんな感じで、タクラムさんの Our Methodの所の

◎ Rapid Prototyping
◎ Storyweaving
◎ Problem Reframing

について、講演をしていただきました。

(私の余計なコメントも沢山混ぜて書いてしまいましたが。)

この後の質疑応答でも、かなりいろんなことをうかがえました。

私が特に知りたい!と思っていたのは、storyweavingの「後戻りを許す」という点。

”クライアントの社内において、「物語」と「モノづくり」の相互作用でお互いに軌道修正をかけあう、というのは、いったん走り始めてからブレたら総崩れになる大型開発の時には、厳しい?どいう処し方をするのでしょう?”

と質問をさせていただきました。プロブレム・リフレーミングも然り、ですが、大手企業の中で開発をされる方は、「要件定義をされたものは、動かさずに、受け取ってきたものを更に自部署の仕事を載せて発展させて、次の部署へ遅滞なく渡していく」という日々の中で、「後戻りを許す??」「コンセプトがものづくりからフィードバックを受ける??」と感じられるかもしれません。それは経営者にしかできないウルトラCではないか、と。

しかし回答は、なるほど、という物でした。

渡邉さんの言葉を石井なりの表現でやや不正確ですが綴りますと次のようなものでした。

「エンジニアリングのタイミングになっていくと厳しい所もあるが、企画の時期にstoryweavingをやる。そして、動く企画書(=ワーキング・プロトタイプ)をだす。多くの人がそれに”自分だったらこういう色が欲しい”といったユーザ目線の意見を言って、時には自分たちの部門のハードルを上げるようなことさえも発言する。」

「絶対にずらしてはいけない幹は動かさない。枝葉はずらしてもOK」

と。

更に別の方の質問を挟んでいるうちに、この回答を掘り下げて考えていました。

”とすると、ずらさぬ幹とは、具体的に、開発事例で言うとなんであろう。どの程度の部分が修正をうけ、どの程度が受けない部分か。”

これについて、再度質問をさせていただきました。”特に、開発事例では、当初の提案で没になった案も交えてお話しいただいたので、一連の開発プロセスの中で、ずらさぬ幹は、どの線であったのかを先の具体事例(SHENUと、もう一件)について教えてください”とたずねました。

これについては、石井の言葉で綴りなおすのは、あまりにデリカシーがないので、その場にいた人だけの知識として、ここには書かずにおきますが、幹にある部分というのは、20文字ぐらいで表現できる短いフレーズのようで、それをミキ・エダハの分解作業を通じて見出しておくことが大事なんだろうなぁと思いました。



6.参考文献
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渡邉康太郎(2011)『ストーリーウィーヴィング』 ダイヤモンド社





(それから、終わりに渡邉さんが紹介された本もありました)







以上です。

2時間のお話をいただいて、その後、お酒の席もお付き合いいただいた渡邉さんに心から御礼を申し上げます。

教わったことを活かし多くの可能性を開いていけるように精進します。




備考:

実際のtakramさんがお話になられたことと違う点があるかもしれません。ご了承ください。講演の聴講報告を書くにあたって、以下の情報を参考にさせてもらいました。



7.参考にした情報
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posted by 石井力重 at 18:18 | アイデアプラント 3rd(2012-2014)



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