同じセッションで発表された株式会社ウエザーコックの山本さんには講演者テーブルで直接お話をお伺いできました。コト(動きやデータ)をモノ(マテリアル)にするという、とても面白い事業をなされています。発表を行うことで、こうしたすばらしい活躍をされている方と出会えて同じ土俵で話ができる、というのは学会発表の大きなメリットのひとつだと実感しました。働きながら調査分析を行い研究を進めるというのは時にきついこともありますが、継続して研究者としての活動も進めていこうと、意を新たにしました。
なお、発表内容についてお問合せなどがあればお気軽にご連絡ください。インタビュイーとの秘密保持があるため制限が少しありますができる限りの対応をいたします。
■資料■
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東北の起業家の地域に対する意識
〜起業家にとっての地方の魅力・メリット〜
石井力重(株式会社デュナミス・NEDOフェロー)
1.はじめに
「ベンチャーをするならば、チャンスの多い東京に行かないといけない。」そんなことを地方の創業関連のコミュニティーで聞くことがある。しかし、その一方で、地方にも長期にわたる発展を遂げているベンチャーも存在する。
筆者は2005年度に東北地域(※1)のベンチャー企業をインタビューした際に、10の要因(※2)以外に、起業家が創業地選定の好材料と感じているものについての多様なコメントを得た。本稿では、“起業家の地域に対する意識”に注目し、『何が起業家を引きつけるのか』という視点で調査データから抽出した情報を整理・分類し考察する。
2.調査方法・分析方法
調査対象は、東北の経済団体の支援するベンチャー企業+東北の大学発ベンチャー合計15社。調査方法は、面接インタビュー、10の要因の影響有無+自由回答。分析方法は『何が起業家を引きつけるのか』という情報を各社インタビュー記録から抽出し、KJ法にて分類。
3.結果
以下のような、7つの要因が見られた。(括弧の中は回答者数。複数回答)
1)人のつながり(10ポイント)
・地域のネットワークキーマン、ネットワーク組織
2)生活環境(5ポイント)
・故郷、豊かな生活の質
3)人材(3ポイント)
・低い流動性、安い賃金
4)ライバルの少なさ(3ポイント)
・事業機会の独占可能性、メディア効果、支援制度の採択可能性
5)土地・建物(2ポイント)
・安価で拡張性に優れた土地、割安な建築費
6)地場の産品(2ポイント)
・豊富な食材、伝統工芸品
7)サポート企業の存在(2ポイント)
・試作製造外注、経営のメンター
なお、1ポイントの回答には次のようなものもあった。
8)自県の市場構造、文化的土壌を良く知っていたこと
9)精密部品の加工にむく良質な気候
10)特定機関むけサービス事業に協力が得られたこと
4.考察
以上を本質的な視点にまとめると以下の3つになる。
地方で創業することの魅力・メリットは、、、、
「リスク・コストが低いこと」 …3)4)5)
「活用度のひくい良いリソースがあること」 …6)7)
「豊かな生活環境があること」 …2)9)
(1,8,10は地方部だけでなく、都市部でも要因たりえるものゆえ除外)
5.まとめ
『何が起業家を引きつけるのか。』この問いについては都市部と地方部では当然答えは異なる。今回の調査データは“東北地域の”という限定つきではあるが、その多くは、他の地方部でも共通して見られると思われる要因である。起業家・ベンチャー企業の輩出を通じて新産業創出を図る地域にとっては、通常の起業家支援活動に加えて、起業家の視点から見た地方部のポテンシャルを意識することで、地域独自の支援スキームを開発してゆくためのヒントが得られる可能性がある。本稿ではそうした議論の一材料を提供した。
(※1)東北地域としてここでは、東北6県(青森・秋田・岩手・宮城・山形・福島)+新潟をさしている。
(※2)これまで筆者は、ベンチャーの創出される要因となるものを、知的資源(大学等)・地域産業(3次産業等)などの都市型のビジネス環境をベースにした10の要因モデルでベンチャー企業数と地域資源の相関関係を分析してきた。(「大学発ベンチャー創出とビジネス環境因子の相関に関する分析」『産学連携学会第3回講演予稿集』等)。10の要因モデルは、都市型を基本にした要因で構成されているため、地方部のベンチャー創業については、主要な要因が描けていないモデルであった。なお、今回の分析では、起業家の10の要因についてのコメント部分は、抽出の対象外としている。