(前半)
ポニョの物語を、自分なりに分解して、続編を空想してみます。
ネタバレを含みますので、ご注意ください。
解釈は、多分に私の主観によるものです。不正確さもあります。正確なところは原典となる作品をご覧ください。
■ 分解してみる
物語原型論を基本的な視座として見てみる。
過去、今、近い未来、壁、乗り越える助けとなるもの、結末。この6要素を物語に当てはめて、要素を切り出す。
近い過去
ポニョ。海の奥の日々。好奇心にかられて水面へ。アクシデント。船を避け瓶にはまる。子供に拾われ、救出。
怪我した子供の血と傷をなめる。消える傷。子供は拾って帰る。幼稚園で見せるも歓迎されない。不吉の印とも言われ。
人を避け海辺へ。そこで、父親は魔力でポニョを取り返す。ポニョは手足を望む。そしてヒレを手足の原生的なものへ変化させる。父は魔力でその変化を元に戻す。水泡の中で気絶する。
現在
ポニョは目覚める。膜状の束縛を次々解く。影響が強すぎて、魔法の力の源の井戸も開く。その力で、ポニョはさらに力を得て、変身を進める。水の生き物に力が降り注ぐ。
子供に会いたい。妹たちと海上へ。嵐と大波の姿となって浜へ出る。子供達は水から逃げ家につく。人間の姿になったポニョもそこへ。ポニョは魚の子のポニョであることを告げる。
親子と嵐の中過ごす。ポニョは疲れてしまうと、嵐は収まる。子の母は他の人を心配して出ていく。残った子供はポニョと寝てしまう。海の女神が登場。ポニョの母。二人を見守る。
近い未来。
起きる。崖の上の家すれすれの水。街は水没。子はポニョと共に、母を探しに行く。魔法の力で、おもちゃの船を大きくし乗る。途中でポンポン船のエネルギーであるろうそくが消える。ポニョは眠りに落ちてしまう。子供は自力で船を泳いで進める。魔法が消え始め、陸につくと同時に船は元の大きさに戻ってしまう。
子供は母の車を道中発見する。不安。ポニョの慰めで進む。歩きながらポニョは、眠りに落ちてしまいそう。トンネルの闇の中、眠りに落ちつつあるポニョは、半魚人に戻り始める。子供は走ってトンネルを越え、水のある場所へ出る。ポニョは、魚の子に戻っていた。バケツに水を汲み、ポニョを入れる。
壁
昨晩、ポニョの父は母に告げた。魔法の水が溢れ、世界の秩序が狂った。このままではいけない、と。
助けとなるもの。
母である女神はいう。ポニョを人間にしてしまえば良い、と。ただし、それには試練がある。果たしてどうか。失敗すると、水の泡になってしまう。
近い未来、続き
ポニョたちをポニョの父が迎えにくる。恐れて逃げる子供。世界の秩序は壊れつつある。時間が、ない。力づくで、水の中に連れていく。そこには、子供の母、ポニョの母がいる。
ポニョの母と子供は対峙する。三つの問を出す。子供は力強く答え、試練をクリアする。ポニョの母が魔法をかけてからいった。水上でポニョを包む水玉にキスを。そうすればポニョは人間になり、魔法を失う。と。
結末
場面が変わる。水没した場所にいた人々は水没をまぬがれた高台のある水上に上がっている。子供の父の船も無事に到着。ポニョが跳ねて、キスをする。水泡は弾け、人になる。
おしまい。
■ 石井の解釈
わかりやすい物語パターンとは違った構造がとても興味深いです。壁、そしてそれを超える、という、よくある「物語の推進力」とは違った大きな推進力がこの作品の中にはあります。壁となるものも一応かきましたが、特徴的なのは、壁となるもの(世界の秩序が乱れ、世界が破滅に向かいつつあること)を、主人公の二人がほぼ感知していないままに、話が進み、主人公の一人である子供が毅然と問いに答えることで世界が救われ、ポニョは、人になれる、という「解決」を達成しています。
通常の物語では、主人公は必死に苦労しながら、壁を越えようとし、辛くも解決をもぎとります。見ている人は一緒にどきどきし、情熱や愛や仲間の献身に感情を揺さぶられ、達成の高揚感を得ます。一方、ポニョは、そういうストーリーエンジンとは別の推進力で視聴者を惹きつけ先へ先へと進んで行きます。
それがなんであるのかは、私はわかりません。あるのはわかるのですが、分解して要素のようにいえば、間違っているような感じになりそうです。人間の魂はなんであるのか、と問われて、分解して、タンパク質と水分とカルシュウムと、、、で、できています、といっても正しくないように。
昨晩、旅先のホテルのテレビで、はじめてポニョをみて、何とも言えない奇妙な感じがしました。最後まで惹きつけられ、面白かった。のは確かですが、どういえばいいのか。奇妙な読後感、というか。読、というのは適切でないですが。
(後半)
■ この先を考えたくなった
良い作品は時に人に主人公のその先を知りたくさせるものです。私はポニョのその後がしりたい。でも、作品というのはそこで終わるべくして終わっているべき。なので、自分で考えます。
ポニョの戸籍:
ポニョは、子供のうちで一緒に生活することに。問題は、このこの戸籍。養子縁組をしようにも戸籍がない。正直に村の役場にいう彼ら。窓口は混乱。役場の村長さんが昔の人面魚のあとにあった話を知っていた。そこで、この子は、嵐で海から流れ着いた。身元引受人に、この家族になってもらい、暫定的な戸籍相当の処置をする。
ポニョの知性:
ポニョは、ものすごい勢いで、人間の言葉を獲得した。
父が言語を使って話していたこともあり、言語中枢がある程度あったことも影響しているが、本能的に未知の言語ユーザと会話ができる知性上の特徴を持っていた。赤ん坊とコミュニケーションし、時には動物とも会話をしている節がある。
人間の習慣は、ソウスケの模倣をしてほどなく問題はなくなった。
暖かい、見えない守護:
物語の世界でよくあるのは、人ならざる娘が人間になった場合、2つのことが続いて起こりがち。一つは、人ならざる時代の記憶を失い、自分を人間だと思いこめるようになる。ポニョは、残っていそう。もう一つある。親兄弟が、影ながら、人間の寿命が尽きるまで見守る。人ならざるものは人の寿命よりずっと長いことが多い。人間になれば、死にやすい。それを影から見守り、気がつかれないように、護ってくれる。海辺の街は水害から守られる。ポニョの育ての親となったソウスケの父の船は世界中どこを航海しても必ず生還する。ポニョを養育することで経済負担は増えるが、父の仕事は徐々に伸び、養育費は問題ではなくなる。
ただし、人間の子供同士の喧嘩やいじめは、海からは手が出せない。そこは、ソウスケが、救っていく。
ポニョの将来:
ポニョは、港町の牧歌的な、街のマスコットキャラクターのように愛される屈託のない女性に育つ。ただ、魚を扱う仕事にはつかない。本能的に、海の仲間の売買する営みを避ける。ポニョは魔法を失った。しかし、独特の知性を持っている。赤ん坊や動物とも会話をでき、多言語を非常に短い時間で使えるようになるサヴァン症候群的な素地を持っていた。それを活かすような仕事をこの街の崖の上ではじめたいと思いつつある。
ソウスケとは、健全な付き合いをして、二人でこの街の自宅のしたの土地に、小さな仕事場を作りたいと考えている。
ソウスケの将来:
ソウスケはまっすぐな男性に育っていく。そこに惹かれる娘も出てくるが、ソウスケはそうしたことに興味がなく、男友達のように遊び転げているポニョとの関係が楽しく、気楽で、ずっとこうしていたいと思っている。ソウスケはあのあと、自分の傷の治癒が非常に早いことに気がついた。ある時、包丁で指先を切ってしまうが、消毒しているうちにふさがってしまった。ポニョをかばって骨折してしまった時も、二日で完全に治り、医者が驚く。しかし、本人はあまり気にしていない。若いからな、と。
■ 想像した続き
成人した二人は、崖の上の家をしたの斜面に建てましして、看板を打ち付けている。そこには、Pon & Sos Company と書かれている。
ポニョは、魔女の宅急便に出てくる画家の女性に似た姿、ソウスケは、父に似ている。
二人のところには、困りごとを抱えた人が訪ねてくる。
猫が急に懐かなくなったという。ポニョは、猫と会話する。原因を教える。
船の人手が足りない、ということで、二泊三日の漁に呼ばれる。ソウスケは、船乗りだった父の影響で、センスがある。嵐の時期でも、ソウスケが乗ると不思議と海が穏やかになり重宝される。
でも、高齢者宅の電球の交換や庭木の剪定など、平和な平凡な仕事が大半だ。ソウスケは多少の切り傷は瞬時に治るので、助かっている。
そんなある日、大きな事件が起こる。
人間の文明はある科学技術で最先端の発電方式を開発する。港町でのテスト設備を作る。街はお祭り騒ぎに湧く。が、それがある日、偶然が傘なり、過剰動作してしまう。それが原因で、街への道が土砂崩れで孤立する。うん悪く、消防や救急は隣町に応援で出動していた。街にもどってこれない。
ますます、設備はオーバーロードをしていく。このままでは、設備が壊れる。科学技術の専門家たちから電話が入る。状況を伝える。沈黙ーー。最悪の事態へまっすぐ進んでいる。それが壊れた場合、周辺数百キロの街が危険にさらされる。と。
停止させるには三つの作業がいる。電話で聞かせてもらった。ソウスケは、基礎工事や建築の手伝いも呼ばれていて、間取りや配線はわかる。しかし生身では危ない。だからといって、専門家の到着を待てば、もう手遅れになるタイミングまで、インジゲーターは進んでいる。
僕がいくしかない。
ソウスケは装置を止めにはいる。爆ぜる電線が頬をかすめる。それでも、何とか、一つ目は解除。さらに奥へ。熱い。焼け付く扉をあけ、熱で変形しているレバーを力の限り押し下げる。皮のグローブが煙を上げる。何とか、それも解除された。その瞬間、周囲の崩落が起こる。
倒れ、動かないソウスケ。ポニョは、そとから、見守る。動物たちの声を聞き、毛が逆立つ。もう、ソウスケがなかにいちゃいけない。走りながら、桶を奪って水をかぶるポニョ。中は火の海。熱で朦朧状態になるポニョ。最後の力をふりしぼり、叫ぶ。
ソウスケは声で目が覚める。あらかたからだが動く。折れていた骨がもう治りつつある。痛みを堪えて、這い出す。ポニョを見つける。背負う。軽い。どきっと振り返るソウスケ。一瞬の静寂のあと、前を向く。落ちている防火布をマントのように羽織る。そして、崩れた出口をさけ、煙から逃げるうちに、冷却装置の生きている最重要エリアにたどり着く。非常装置の出すスプリンクラーの水が二人をつつむ。水がかかると、目覚めるポニョ。ずしっと重くなる。
ソウスケはいう。脱出ハッチを開けるには、三つ目を止めるしかない。と。
最後の制御装置は正常に機能したかに見えたが、ケーブルが爆ぜてしまう。残ったケーブルでつなぎかえるが、電流のおおきさから抜けてしまいそう。ソウスケはポニョにレバーを頼み自分はケーブルを押さえつけた。
さあ、今だ!
できない。
頼む、この街の人々を、世界を救ってくれ。
でも、そうしたら、ソウスケが。
大丈夫だ、早く!
(冷却装置が死ぬ。機器のランプが消え始める。)
ポニョは、意を決っする。
一気に下げる。制御装置は通電し、停止機構が動き出す。完全自動停止の開始まであと10秒。押さえるケーブルが引っ張られる、抜けそう。抜けないように思い切りつなげるソウスケ。熱で手が焦げている。熱と電流で満身創痍、意識が遠のく。
そこに抱きつくポニョ。ソウスケにキスをする。
ソウスケの傷が消える。
そして、カウントはゼロ。自動停止が起動。二人をのせた脱出シュートで海辺へ。転げて、寝転んだまま、空を見上げる二人。
ポニョの輪郭がぼやける。泡立つ瞳。抱きしめる。が、水になり、海に流れてしまう。みずたまりに、ソウスケのなみだがおちる。波紋が広がり笑ったように見えた。ソウスケは小瓶に水をすくう。
場面は変わって、年老いたソウスケ。
あのオフィスで街の子供達に話を聞かせている。
子供達は、今までの話を、えー!かわいそう、と言いながら聞いている。ソウスケは、まあそうさな、といい、壁際の小瓶をみる。中の水は笑うように、ちゃぷっと波を立てていた。
おしまい。
ーーー
これは、あくまでも、個人の想像としての、続きの世界です。ある種の良い物語は、そのお話をどう解釈するか、その先にどんなストーリーがあるのかを見た人一人一人が自由に考えることができるのだと、思います。
最後まで読んでくださった方がいらしたなら、ありがとうございました。
僕は、『魔女の宅急便』が大好きで、あの話を何度も見ています。でもその後の話をかんがえてみたのは、ポニョでした。奇妙な読後感は、ミステリアスで読者に謎の解き方をあたえる。そんなところがあるのかな、と思いました。読者、というのは正確な言い方ではないですけれど、僕にはそう表現した方がしっくりきますので。