企業内人材育成入門
の動機づけの部分に興味深い記述があります。動機付けのヒントとして、私なりに理解したことをメモしておきます。
同書には、基礎心理学、教育心理学からの切り口も展開されています。
■内発的動機づけ、外発的動機づけ
「内発的動機づけ」人が仕事そのものに感じる面白さ、やりがい。「外発的動機づけ」報酬など外部から与えられる動機づけ。内発的動機づけは、今日の組織での動機づけの考え方に大きな影響を与えている。
外発的動機づけ:報酬など、何らかの他の欲求を満たすための手段としてある行動を取ろうとすること。(作業環境や罰則、苦痛などの刺激。生理的動機)評価されたい、出世したい、上司から起こられたくない、という気持ち。(親和的動機は、ちょうど外発的動機づけと内発的動機づけの中間)外発的動機づけでは、金銭的報酬や罰などの外的賞罰にばかり注意が向くため、活動自体へのコミットメントが低くなり、結果として低いパフォーマンスしか発揮できない可能性も。
内発的動機づけ:他の報酬を得るための手段としてではなく、やっていること自体に感じる楽しさ、やりがいによる動機づけ。(達成動機)。一般に、仕事や学習などの高次の活動には、外発的動機づけより内発的動機づけのほうが効果的。
■どのようなときに、人は内発的に動機づけられるのか。
「
知的好奇心(epistemic curiosity)」
「自立性(autonomy)」
「
自己の有能さ」「
自己決定」
内発的動機づけとして重要と考えられているのが上記の3つ。
知的好奇心:新しいことを学ぶこと自体に感じる面白みや興味。新しいことに挑戦する面白さ。新しいことや珍しいものに面白さを感じ、探求しようとする知的好奇心を感じるとき、人は内発的に動機づけられる。ブルーナーの「発見学習」。教師が体系化された知識を教えるのではなく、生徒自身が自分で仮説を立て、その仮説を検証することによって主体的に学んでいく学習法。
自己の有能さ:自分が周囲の環境を効果的に処理することが出来る。
自己決定:自己の欲求をどのように充足するかを自由に決定できる。
自分から選択して行っている場合には内発的動機づけは高まる。自分ではどうすることもできず、自己の有能さや自己決定を認識できない状況に置かれると、内発的動機づけは低下する。
■「外発的」と「内発的」の関係
「内発的」は、報酬のような「外発的」を与えることでかえって下がってしまう場合もある。”アンダーマイニング現象”金銭などの外的な報酬が「内発的」を低下させる。(報酬を与えて動機付けさせたグループは、報酬の内ときには、とたんに課題に対する興味を失う)
「外発的」が次第に「内発的」に変わっていくことも有る。上司に命令されていやいや始めた仕事が、いつの間にか楽しくなり、天職と思えるようになることもある。人間が周囲の規範や価値を自分のものとしていくことを、”内在化(internalization)”と読んだ。(デシ)
デシ:内在化には「取り入れ(introjection)」「統合(integration)」という2つの過程が有る。
取り入れ:規範や価値感をそのまま鵜呑みにして受け入れている状態。言われたとおりにまずはやってみる。
統合:規範や価値を自分なりに噛み砕いて消化している状態。言われた仕事であっても「今、さまざまな分野の仕事をやっておくことがきっと将来の役に立つだろう」というように、その経験を自分なりに意味づけている状態。統合の状態になると、はじめは外から与えられた仕事であっても、自ら進んでやろうという気持ちになる。そうしているうちに、その仕事自体が楽しいという内発的に動機付けられた状態になることも有る。
「内発的」と「外発的」は必ずしも対立するものではない。どちらの動機付けも、使い方によって人をうまく動機付けることもある。
社員の自律性や主体性を尊重すると同時に、ときには外発的な動機づけ(たとえば上司の命令や異動、昇進など)によって社員が自分では気づかないような能力を育成し、仕事の枠を広げていくことも重要。